弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年6月24日

裁判官・三淵嘉子の生涯

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 伊多波 碧 、 出版 潮文庫

 NHKの朝ドラ「虎に翼」が、目下、大変な話題になっています。といっても、私はテレビはみませんし、このドラマをみるつもりもありません。
 でも、このドラマの背景となっている昭和の初めの日本と東京には、大いに関心があります。私にとって、NHKの朝ドラは、なんといっても、「おはなはん」。樫山文枝の演じる「おはなはん」のほっこりとした笑顔には高校生のころ、本当に心が癒されていました。
 そして、この朝ドラの主人公の寅子(ともこと呼ぶんですね。とらこ、とばかり思っていました)が高文司法科試験に合格したのは1938(昭和13)年のこと。私の父は、その5年前、法政大学の学生でしたが、同じく司法科試験を受けたのです(あえなく不合格。1回でやめました)。父は弱冠17歳のとき、1927(昭和2)年に大川市から上京して東京で7年間ほど生活しました。そのころの社会状況を調べはじめたところに、この4月からほとんど同じ時期に焦点をあてた朝ドラが始まったのですから、注目しないわけにはいきませんでした。
 当時の司法科試験がどんなものだったか調べようとして苦労していたところ、後輩の弁護士(杉垣朋子弁護士)がインターネットで探しあててくれました。私の時代にあった『受験新報』の戦前版の『國家試験』という雑誌です。今では、居ながらにして国立国会図書館のコピーサービスを利用することができます。それによって、父が受験した司法科試験のスケジュール、そして試験問題がおよそ判明しました。
 父は一次のペーパーテストで合格できませんでしたので口述試験を受験していませんが、口述試験の詳細な体験談も、この『國家試験』には再現されています。
この本に「全豹一般(ぜんぴょういっぱん)」という見慣れない用語が登場します。物事のごく一部を見て、全体を批評すること、だそうです。なるほど、私もしばしば陥る間違いです・・・。
 1938年に寅子は司法科試験に合格しましたが、そのころ女性には参政権がなかったことを忘れてはいけません。女性は裁判官になれないという前に、参政権がなかったのです。つまり、女性は政治を語るほどの能力はないとされていたわけです。とんでもないことです。ところが、今は、どうですか・・・。男も女も投票所に足を運ぶのはせいぜい有権者の半分もいません。先日、沖縄の県会議員選挙で、デニー知事を支える「オール沖縄」が議席を減らしましたが、このときだって投票率は5割に達していません。裁判所が下から上まで、政府にタテついても勝たせてあげないよという判決を出し続けているなかで、あきらめ、絶望感が広く、深く浸透しています。それでも、めげずに、ひどいことはひどいと声をあげるしかありません。何千万円の裏金をふところにしておいて、税金が課されないなんて、おかしいでしょう。法改正といいつつも、領収書が公開されるのは10年後だというのです。10年後に、今の議員が生きていますか。維新はないでしょうし、自民党も公明党も10年後に果たしてあるでしょうか。
 この本はテレビのストーリーも下敷きにして書かれた小説(フィクション)です。まったく商魂たくましいですね。感服します。3ヶ月で5刷りというのもすごいです。
(2024年6月刊。880円+税)

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