弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年6月17日

森の鹿と暮らした男

生物


(霧山昴)
著者 ジョフロワ・ドローム 、 出版 エクスナレッジ

 フランスの若い男性が、ルマンディー地方の森の中に入って、そこで生活して、鹿と仲良くなって7年間も暮らしていたという驚くべき話です。信じられません。
夜の森は退屈とは無縁だ。夜行性の動物はたくさんいて、サイズもさまざま。昼夜を問わず活動する動物もいる。たとえばリスは、日中は庭をちょろちょろしているが、夜は森を縦横無尽に駆けまわっている。
 森で過ごすようになって、人生はより濃密になり、喜びと発見に満ち、おだやかだった。
両親が私を縛りつけようとすればするほど親子の絆(きずな)はほころびていき、ついに切れた。私は森で暮らすことにした。
森の冒険は4月に始まった。できるだけ森で採れるものを食べ、完全には難しいとしても、菜食主義に近い食生活をしようと決めた。同じ森にすむ動物を狩って食べるなんてことは考えられなかった。
ある晴れた朝、道端で葉っぱを食べていると、1頭のノロジカが私の目の前を横切り、数歩先でとまった。この出来事がきっかけで、ノロジカと暮らし、彼らの生き方を学ぶことにした。正しいサバイバル法はノロジカのダゲを観察することで分かった。
ノロジカは昼夜を問わず、短いサイクルで休む。1回に1、2時間ほどの休憩を何度もとる。こまめに眠れば、夜にまとまった睡眠をとる必要がないことが分かった。
そして、森では、昼よりも夜のほうが生産性が高い。完全なる自給自足は一朝一夕で達成できるものではない。私の貯蔵法は、採取した植物を日中はメッシュ生地の袋に入れて日当たりのよい枝につるし、夜は湿気ないようにジップロックに入れるというもの。
イラクサ、ミント、オレガノ、オドリコソウ、セイヨウナツユキソウ、セイヨウノコギリソウ、シシウド・・・。食べられる植物と毒のある植物を正確に見分け、それぞれの栄養価を把握する、これには長い時間がかかった。量にも注意が必要。スイバはとてもおいしくて食べやすいが、大量に摂取すると、ひどい消化不良を起こす。小さな花をつけるアカバナの根は万能薬。
食料の蓄えがあり、大きなケガをせず、適当な体力があれば、1年ほどで栄養面の自活・自立は成し遂げられる。
シカと生活し、移動を共にするうえで、いちばん難しいのは、雑念を払うこと。
いたずら好きで、遊び心のあるノロジカたちに、私はすっかり魅了された。
森に善悪はない。しかし森は、常に私たちに自問することを強いてくる。
シカは習慣の生き物だ。だから、シカに会いたいと思ったときは、いつも現れる付近に腰をおろして待つのが賢い。
森で生活するとき、洗濯はしない。人間社会のにおいを森に持ち込みたくないからだ。
ノロジカは美食家だ。栄養価が高く質の良い食べ物を選んで食べている。
神経質そうに見えて、ノロジカはおだやかで、生きることを楽しむ生き物だ。
冬のもっとも寒い時期は発汗が命取りになるので、なるべく汗をかかないようにする。低体温症にならないように、体を濡らさない。体温を保つこと、十分に食べること。冬場のまとまった睡眠は死に直結する。
気温が最も高くなる午前中の終わりに少しだけ眠った。
ノロジカは人の感情を理解する。それだけではなく、その人の善悪、つまり動物の命を尊重する人と、危害を加えようとする人を見分けることができる。
著者は19歳のときに森に入って生活を始めました。そして、26歳のとき、パートナーに出会って写真展を開いたのです。39歳になった今も、森の近くの町に住んでいます。すごい本です。思わず力が入り、うんうん唸りながら読み進めました。
(2024年4月刊。1800円+税)

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