弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年6月13日

ハルビン

朝鮮・韓国


(霧山昴)
著者 キム・フン 、 出版 新潮クレストブックス

 伊藤博文をハルビン駅のホームに待ち構えていて射殺した朝鮮人の安重根を描いた歴史小説です。韓国で33万部も読まれたベストセラーでもあります。安重根は朝鮮では知らぬ人はいないほどの英雄です。
 小説とはいえ、ほとんど史実に則しています。それで、ハルビン駅の警戒の緩さが日本側に原因があったことを知りました。
 当時、ハルビンはロシアの統制下にあり、ロシア警察庁は日本総領事に事前入場券の発行を提案した。しかし、日本側は、すべての日本が自由に入場できるようにしてほしいとして断った。たしかに、ハルビン在住の日本人は大勢がハルビン駅に歓迎のために参集したようです。そして、日本人も朝鮮人も外見からは識別できませんので、日本人の間に朝鮮人が紛れ込むのは容易でした。さらに、駅に入る人の所持品検査はしなかったのです。
ハルビン駅に伊藤博文が来ることは新聞が事前に報道していた。しかし、到着時刻までは書いていない。そこで、安重根の仲間がロシア人の駅員にロシア語で話しかけて聞き出した。
あとは安重根がハルビン駅にたどり着けるか、拳銃に弾(たま)は何発あるかです。
安重根は拳銃の弾を伊藤博文に3発命中させたようです。そして、伊藤博文のそばにいた日本人3人をうち、弾が1発だけ残りました。
ハルビン駅はロシアの管轄区域だけど、犯人の安重根が韓国市民であるため、この事件の裁判権はロシアに属さないとロシア司法裁判所は決定した。
そして、ロシア憲兵隊は安重根をハルビン駐在の日本総領事館に引き渡した。安重根は領事館の地下の拘置所に入れられた。
安重根は死刑宣告を受けたあと、上訴権放棄をして死刑を早々に確定させました。それからの安重根は大忙しだったようです。自分の一代記まで書いています。たいしたものです。
安重根は1910年3月26日、処刑された。31歳だった。
安重根の遺体は現在まで所在不明のままで、発見されていない。
韓国カトリック教会は、1993年8月に安重根の行為は「正当防衛」であり、国権回復のための戦争遂行行為として妥当だったとしました。
(2024年4月刊。2150円+税)

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