弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年6月 7日

運び屋として生きる

アフリカ


(霧山昴)
著者 石灘 早紀 、 出版 白水社

 モロッコの北部にスペイン領の町がある。いわゆる飛び地。
 この国境地帯は、アフリカからヨーロッパを目ざす移民や難民の経由地。なので、国境には高さが6メートルもあるフェンスが3重に張りめぐらされていて、監視カメラやセンサーで警備されている。そして、この国境を毎日往来する「ラバ女」とも呼ばれる「密輸」の運び屋がいた。ジュラバ(モロッコの伝統的な民族衣装)の下に洋服を隠した女性たち。運ぶのは衣料品と食料品。
 モロッコには、運び屋が4万5千人、間接的に関わっている人は40万人いた。
 当局から暴行(性的なものも)されたり、商品を没収されたりもするが、法的な検挙はなかった。
 この本は、日本人女性が現地で体当たり取材して判明したことを紹介しています。勇気ありますね。
 モロッコは移民の送出国。モロッコ国外に住むモロッコ人は540万人(2020年)。海外に住むモロッコ人から本国への送金額は90億ドルをこえ、モロッコのGDPの7%超を占めた。
 フランスには、100万人のモロッコ人が住んでいる。
 私が30年前に南フランスのエクサン・プロヴァンス大学の外国人向け夏期集中講座を受けたときの講師も若い元気なモロッコ人女性でした。
 2015年11月と2017年8月にパリとバルセロナで起きた同時多発テロの容疑者の多くはモロッコ系だった。しかし、生まれはモロッコだとしても、育ったのはフランスであり、スペインだったのですから、モロッコにだけテロの原因を求めると、間違います。
 モロッコにいるサブサハラ移民の存在は、モロッコにとっての切り札となっている。
 運び屋のほとんどは、50~100キロにもなる商品を背中にかついで運んでいて、「密輸」であることを隠しもしていなかった。彼女らは、「自分用のお土産」を持ち帰るという建物なので、本来なら科せられるはずの関税20%を支払わず、商業輸入していた。
 この20%というのは、実に大きいですよね。ここに「密輸」ビジネスの合法的根拠があるわけです。
運び屋になるには、言語能力も特別なスキルも何も必要なく、ネットワークも不要。ただ、ビザ(責証)免除の対象となることだけが求められる。なので、現地の女性がなるわけです。
運び屋は35~60歳の貧困層の女性が中心。
モロッコの非識字率(文盲の割合)は、男性22%、女性42%(2014年)。女性だけをみると、都市部の非識字率は31%なのに対して農村部では60%超。
モロッコ社会では、運び屋は売春婦と同等の社会的地位にあるとみられている。
ところがモロッコは、2019年10月、重大な方向転換をした。長いあいだ容認してきた「密輸」を根絶すると宣言した。これはモロッコの国産品の競争力向上を目ざしたもの。すっかりなくなってしまったのでしょうか...。
モロッコにおける密輸の状況を現場に行って聞き取り調査もして、まとめた論文が分かりやすい本になっています。問題状況をかなり認識することができました。
(2024年4月刊。2800円+税)

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