弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年5月14日
続・農家の法律相談
司法
(霧山昴)
著者 馬奈木 昭雄 、 出版 農文協
私は読んだことがありませんが、『現代農業』という雑誌があるそうです。全国の農家を対象とする業界誌なのでしょう。
そこで著者は、32年の長きにわたって農家から届くトラブル・悩み事に対し、誌上で回答しているのです。その長さに驚かされます。
もっとも、私も民商(民主商工会)の全国機関紙である「全国商工新聞」に月1回の法律相談のコーナーを1989年7月から担当して35年になります。新聞のコーナーですから、短い文章で、いかに分かりやすく回答するか、いつもない知恵をふりしぼっています。
この本は15年前に同旨の本を著者は刊行していますので、その続編になります。最近は民法も次々に改正されていますので、回答した時点では正しくても現在の出版時では間違いになったりもします。そこは若手の吉田星一弁護士がチェックしていますので、安心です。
さて、内容です。さすがに農家からの質問ですから、農地、生育環境と農薬にかかわるもの、農事組合法人や土地改良区をめぐる問題など、農家をめぐる諸問題についての百科全書みたいに、かなり網羅的な内容になっていて助かります。
手元に1冊置いておくと、農家の皆さんはきっと安心されることでしょう。
私がまず関心をもったのは農薬です。自家消費の野菜のほうは無ないし低農薬にしているけれど、商品として出荷するものは、許される限度までふんだんに農薬を使用しているというのはよく聞く恐ろしい現実です。
隣の農家がネオニコチノイド系の殺虫剤(スタークル)を散布したためミツバチが死んで、生物栽培に影響が出ているので損害賠償を請求したい...。当然に請求できるわけです。
同じように、隣人が勝手に畑の法面(のりめん)に除草剤をまいたというのも違法行為として賠償請求できます。
この本で厄介な問題だ、難しいという回答が多いのは、村落共同体の一員として今後も生活していかなければならないときです。馬奈木弁護士も「法的解決」では解決しないと回答しているのがあります。
問題点を周囲の人に具体的に説明して、仲間を増やすという「努力を地道に続けるしかない、そんなことも世の中では多いと私も考えています。
土地改良地域内に農用地を所有していたら土地改良区は法律によって、強制的に加入させられる。うひょお...、そうなんですか、ちっとも知りませんでした。
農家には、専業か兼業かを問わず、役に立つ1冊であることを私が保証します。ぜひ買って読んでみてください。おすすめします。
(2024年2月刊。2200円)