弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年5月 9日

腐敗する「法の番人」

司法


(霧山昴)
著者 鮎川 潤 、 出版 平凡社新書

 日頃、気になりながら、つい忘れかけていたことをいろいろ思い出させてくれる新書でした。
 まずは警察とマスコミの関係です。新聞・テレビを漫然とみていると、なんだか日本の社会は凶悪犯罪が次々に起こり、犯罪が増えて治安が悪くなっていると思わされます。
 ところが、実際には、以前は毎月1件以上は国選弁護事件を担当していましたが、このところ、年に1回あるかないか、です。被疑者弁護事件はときどき担当していますが、ともかく犯罪が圧倒的に激減しました。これは全国共通の現象です。
 殺人事件は戦後最低件数を更新しています。犯罪の認知件数はピーク時の3分の1にまで減っているのです。ところが、その事実を多くの国民が知ったら、警察の人員や予算を減らせという声が湧きおこりかねず、また、警察幹部の天下り先の確保が難しくなってしまいます。それで、「日本の治安はこんなに悪くなっている」と日本人に思わせるよう、警察はマスコミを操作しているのです。
 警察白書を発表するとき、警察は見出しの文句まで用意しておくそうです。いやはや、それをそのまま垂れ流すマスコミも、どうかと思ってしまいます...。
 今、高齢者の犯罪はたしかに増えています。それはスーパーやコンビニでの万引事件です。そこには病的な面もあるわけです。万引を繰り返していると、確実に実刑になります。コンビニで100円ほどのおにぎりを万引きして、常習累犯(るいはん)窃盗として、1年間も刑務所に入れておくことになるのが、珍しくありません。いったい、それにどれだけ意味があるでしょうか。なにしろ、1人を1年のあいだ刑務所に入れて国が面倒みると300万円もかかるのです。まるで費用対効果にあいません。
 刑務所の収容者は急速に高齢化しています。65歳以上の人が男性で1.4%(1990年)だったのが、13%(2020年)、女性は1.7%(1990年)だったのが、19%(2020年)に激増しているのです。そして、重罰化・長期刑化のなかで、刑務所の医療は、病気治療だけでなく、終末医療まで求められているといいます。だから、介護・福祉だけでなく、終末医療も必要というのです。驚くべき現実です。
 万引事件が増えたのは、防犯カメラの設置が増えたことにもよるといいます。コンピューター・システムの発達は「犯罪増加」にもつながっているのですね...。
 警察の裏金が大きな社会問題となりました。今ではまったくなくなったのでしょうか。とてもそうは思えません。勇気ある現職警察官による内部告発によって明るみに出たことでしたが、今もひそかにやられていないと果たして断言できるでしょうか...。
 ともかく、警察の裏金は図体がでかいために、ケタ違いでした。検察庁でも裁判所でも裏金づくりはやられていました。それはカラ出張によって旅費を浮かせているのが主流でした。しかし、公安警察ではスパイへの報償金という仕掛けがあります。スパイですから氏名を秘匿した人に支払うわけなので、それを担当刑事が着服していないか、誰もチェックできないのです。この手法を使えば、いくらでも裏金をつくり出すことができます。
 警察がスパイをつかっていないはずはなく、その報償金が明朗会計になっているはずもないのですから、今でも警察では裏金が公然と横行していると私は考えています。でも、よく考えてください。それって、業務上横領事件です。しかも、税金ですから、被害者は国民、つまり私たちなのですよ...。犯罪を取り締まるはずの役所が自ら犯罪しているとしたら、大問題です。
 検察、そして裁判所についても、その「腐敗」を鋭く暴いている真面目な新書でした。
(2024年2月刊。980円+税)

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