弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年3月27日
不安と特権
韓国
(霧山昴)
著者 ハーゲン・クー 、 出版 岩波書店
韓国の現状と、その抱える問題点を深堀りした、興味深い本です。
不安は現在の韓国社会を特徴づけるキーワード。ほとんどすべての国民が不安に直面しながら暮らしている。
富裕中産層が経験する不安の最大の要素は、子どもの教育と就職。
最上位1%に位置する上流階級家庭は不安がない。なぜなら、子どもに事業や十分な財産を譲り渡すことによって階級世襲が可能だから。
上流中産層は、熾烈(しれつ)な教育競争を避けるすべがない。
韓国には渡り鳥家族がいて、急増している。教育のため、子どもと妻と一緒に海外に送り出し、夫がひとり韓国に残って働き、仕送りする家族のこと。
江南(カンナム)は、国家の全面的な支援によって急激に発展した。
江南は、1117人の回答者のうち93人もの人が江南に移り住みたいと考えるほど。
進学(大学入試)にあたって、特権的な機会が保障されている。ほんの50年前まで、江南は田んぼと広大な野原だった。
カンナムに中産層向けのマンションが続々と建設された。マンションが中産層の好む住居形態だったから。
江南は不動産による資産増殖の機会があり、また、より有利な教育を受ける機会が保障されている。江南の不動産(地価)の上昇は他で25倍だったのに対して800~1300倍もあった。
2000年代初めに、弁護士の6割、医師の6割近く、企業家の5割以上、ファンドマネージャーや公務員の5割、ジャーナリストの4割近くが江南に暮らしていた。
韓国民は、韓国の教育システムに対しての不満が極度に高い。韓国では教育が非常に競争的で、費用が多くかかり、子どもと両親にはなはだしいストレスを抱えさせるから。
韓国には、ひときわ垂直的で硬直した大学の序列構造がある。そして、これは縁故主義と密着している。
課外授業という私教育の弊害をなくすためにとられた高校平準化政策が、むしろ私教育市場に火をつける結果をもたらした。家庭教師と私設の塾が急速に増加した。
アメリカには、韓国人の就学児童が4万人いると集計された(2000年代初め)。
子どもの早期留学に人気があるのは、子どもの社会的下降移動を防ぐのに便利な方法であること、親の体面を保つための一種の戦略であるから。子どもが韓国内でソウル大学などの名門大学に行けないときに代わりに選択できるオルタナティブの戦略になった。
かつて韓国社会の主軸を成し、活気にあふれ希望にみちた中産層が存在したが、今では、次第に圧迫され、経済的にも社会的にも無気力で挫折した集団へと変貌している。
韓国人の感じる体感中産層は、1980年代に75%だったのが、2010年代には40%台にまで低下した。2013年の調査では20%台だという結果も出ている。
日本も、かつては「一億、総中産階級」と自称していましたが、今や、そんなのウソでしょ、どこの国の話ですか...、と訊き返されてしまうでしょうね。
韓国の厳しい、矛盾に満ちた社会状況の一端がすっきり頭に入ってきました。
それにしても、この本のとっつきにくいタイトルはどうにかなりませんか...。
(2023年12月刊。2600円+税)