弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年3月 3日
西部戦線、異状なし
ヨーロッパ
(霧山昴)
著者 レマルク 、 出版 新潮文庫
ご承知のとおり、戦争文学の古典です。昨年(2023年)9月に75刷になっています。初版は昭和30年(1955年)9月ですから、私が小学生のころに刊行されています。前に一度読んだことがあると思うのですが、最近誰かが紹介していましたので、改めて読んでみました。
ウクライナへのロシアの侵攻が止まらないうえに、イスラエルによるガザ地区ジェノサイドも現在進行形です。毎日、小さい胸を本当に痛めています。
地震災害は天然自然が起こすものなので、根本的には止められず、対処法を考えるしかありません。でも、戦争は人間が始めたものですから、必ず止めることができるはずです。
武力には武力で対抗するという考えに取りつかれている人のなんと多いことでしょう。日本の軍事予算は5兆円でも多すぎるのに、8兆円へとふくれあがってしまいました。5年間で43兆円、しかも、その内容はかの不要不急かつ未完成というか危険なオスプレイを大量購入するだけでなく、トマホークを400発もアメリカから買わされます。とんでもない税金のムダづかいです。
戦争が始まったら、前途ある青年が大量に殺し、殺され、容易に終わらせることが出来ません。そして、戦争のかげで軍需産業とそれに結びついた自民党などの「政治屋」たちがぬれ手にアワでもうけるのです。嫌ですね、嫌ですよ...。
兵隊がもっとも喜ぶのは、うまい食事と、休息。
戦線に背を向けて帰ってくると、戦線の恐ろしさは消えてしまう。僕らは、戦線の恐ろしさを下等な残酷なシャレ(洒落)で茶化してしまう。軍隊新聞にも出ているような兵隊の面白いユーモアなるものは、みんな大嘘だ。ユーモアを持っていなければ、生きていられないからだ。ユーモアがなければ、僕らの体は長続きしない。
「考えてもみろよ。俺たち、みんな貧乏人ばかりだ。敵のフランス兵だって、たいてい労働者や職人、下っぱの勤め人だ。俺は前線に来るまで、フランス人なんか一度だって見たことがない。向こうのフランス兵だって、俺たちと同じことだろう。奴らだって、俺たちと同じように、何がなんだかさっぱり知りゃしねえんだ。つまり、無我夢中で俺たちも奴らも戦争に引っぱり出された」
「これは、戦争でトクをする人間がいるからにう違えねえな」
「それに、将軍たちだって有名になる。戦争のおかげだ」
「そうか、戦争の裏には、戦争でトクしようと思ってる奴が隠れてるんだな」
僕らが兵士になったのは、感激と善良なる意思によってだ。けれども、兵士になって受けた訓練によって、僕らは心の中から、そんなものを追い出すように、あらゆる迫害を受けた。
僕らは、戦争のおかげで、何をやろうとしてもダメにされちゃった。僕らは、もう青年ではなくなった。世界を席巻しようという意思はなくなった。僕らは世界から逃避しようとしている。
僕らは18歳だった。僕らは、仕事と努力と進歩というものから、まったく遮断されてしまった。僕らは、もうそんなものを信じてはいない。信じられるものは、ただ戦争あるのみだ。
僕らは波に圧倒された。この波は、僕らを乗せて、僕らを残酷にし、追いはぎをさせ、人殺しをさせ、悪魔にする。
僕らはお互いに対する感情を一切失ってしまった。僕らは他人から見ると、誰がなんだか分からなくなっている。僕らは、まったく感情のない死人になっていた。それが魔術によって、危険な魔法によって、なお走り、かつ人を殺すことが出来るのだ。
レマルクがこの本をドイツで出版したのは1929(昭和4)年1月のこと。そして、同年のうちに日本で訳書が刊行された。これって、すごいですよね。でも、残念なことに日本は軍部ファシズム体制をつきすすんでいって破滅を迎えてしまいました。
400頁ほどの文庫本ですが、訳文がとても読みやすくて、スイスイと、重たい内容の割には読めました。戦争の非人間的な本質を分かりやすく暴いている古典小説です。改めての一読をおすすめします。
(2023年9月刊。850円+税)