弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年1月31日

マゼラン船団、世界一周500年目の真実

ヨーロッパ


(霧山昴)
著者 大野 拓司 、 出版 作品社

 マゼランはスペイン船団を率いて世界一周したことであまりにも有名ですが、マゼラン本人はポルトガル出身の航海士。39歳のときに出発し、41歳のとき戦死した。ポルトガル語では、フェルナン・デ・マガリャンイスという。
 マゼラン自身は航海の途中に、フィリピンで亡くなっているので世界一周したわけではない。残った線団員はわずか18人だった。ただし、途中で脱落した船団員17人が別に帰還したので、35人は世界一周を果たした。
 そうは言っても、マゼランが出発したとき、5船には総勢265人(237人から280人まで諸説あり)だったのですから、1割強しか世界一周を果たすことができなかったのです。5船は、いずれも中古船で、つぎはぎだらけの老朽船。
 多くの船員を襲ったのは壊血病。ビタミンGの欠乏によるもの。新鮮な野菜や果物不足によるものだが、当時は原因がまだ分かっていなかった。
 マゼランたちが目ざしたのは海外領土の獲得とスパイス(香辛料)。とりわけ珍重されたのがクローブやナツメグ。「ナツメグ1グラムは金1グラム」とまで言われるほど希少で貴重な商品だった。
 マゼランはフィリピン内部の勢力争いに自ら乗り込み、マスケット銃を2.3発ぶっ放せば地元民はたちまち四散して逃げ出すと甘く見込んで、わずか60人で敵陣に乗り込んだ。しかし、敵は1500人(3000人とも)という大群で、マゼランを集中攻撃したので、たちまちマゼランは戦死し、遺体も運び去られたまま。このときの「敵」・首長ラプラプは、今に至るまでフィリピンの「民族の英雄」として尊崇され、大きな銅像が建立されている。
 ちなみに、フィリピンは、世界に冠たる船員派遣大国。世界の商船の乗組員160万人のうち、4分の1、40万人を占めている。海運界に限ると、なんと70%もの依存率。
スペインは1998年12月アメリカに2000万ドルでフィリピンの主権を売り渡した。これは、今日の価格に換算すると680億円になる。
 著者は私と同世代、元朝日新聞記者で、マニラ支局長もつとめています。いろいろ知らないことが多くありました。
(2023年11月刊。2700円+税)

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