弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年1月28日
イラストでひもとく仏像のフシギ
人間
(霧山昴)
著者 田中 ひろみ 、 出版 小学館
仏像のことが何でも分かる、楽しい本です。仏像がすごく写実的なイラストで紹介されています。著者が仏像を好きになったのは独身でヒマだった叔父さんに連れられて、あちこちのお寺をまわってたくさんの仏像を見ていたからです。幼いときは、アイスクリームや美味しいご飯につられて行っていたのですが、それが、ついに仏像と恋に落ちるまでになったのでした。いやはや、そういうことも世の中にはあるのですね...。
そして、仏像をよく見ていると、人間と同じように1体1体が違っていて、ちゃんと個性があるということに気がつきます。見る位置によって仏様の表情は変わるし、尊格を知るには、ポーズや髪型などの細部に注目しなくてはいけない。そして、時代による流行がある。
仏像のもともとのモデルはお釈迦さま、その人。釈迦は本名(個人名)ではなく、一族の名前。本当はゴータマ・シッダールタ。ゴータマは「聖なる牛」、シッダールタは、「目的を達成した人」の意味。
お釈迦さまは、29歳のとき、妻子も王子の位も捨て、出家します。そのとき髪を剃りました。悟りを開いたのは35歳のとき。80歳のとき、キノコ料理で食中毒になり死亡しました。
釈迦は、母親の右腕から生まれたとのこと。それが当時の観念でした。
仏像には4種類あり、如来、菩薩、明王、天という。如来は、悟りを開いた仏さまで、最上位の仏像である。2番目が菩薩。
観音菩薩には女性になぞらえた仏像が多くある。観音菩薩は、この世に生きるものすべてを救い、あらゆる願いをかなえるべく、33の姿に変身する。
弥勒(みろく)菩薩は、お釈迦さまが亡くなってから、56億7千万年後に、この世界に現れ、悟りを開いて、如来となって命あるすべてのものを救う。
普賢(ふげん)菩薩は、女性も男性と同様に悟りを開いて、仏になることができると説いたので、女性からの信仰を集めた。
明王は、密教によって仏教に導入された仏のグループ。不動明王は、36の童子が、おのおの1000万の従者をもつとされているので、3億6000万の従者が不動明王を手助けしている。
インドには、古くから手のしぐさで気持ちを伝える習慣がある。たとえば、両手を合わせることで、仏さまと生きとし生けるものが合体し、成仏するという意味になる。
インドでは、牛は神の使い、そうなんでしたか...。だからインドの人々は牛を食べないのですね。
お釈迦さまは、生前、弟子たちに自分の姿を写したり、彫刻してはいけないと伝えていた。ところが、死後500年もたつと、どんな人柄だったのか知りたいと思う人が圧倒して、仏像がつくられるようになった。うひゃあ、知りませんでした。
昔は、それこそメールも写真もありませんでしたから、すべては想像です。大工さんの独自の解釈の余地が生まれ、その結果、ユニークな仏像が全国各地に誕生したというわけです。
仏像は、もともと鑑賞の対象ではなく、信仰の対象である。なるほど、そうなんですよね。でも、眺めて美しいと思ってしまうのも許されることではないかと思います。
実に見事な仏像のイラストで、ため息の出るほど驚嘆してしまいました。一読をおすすめします。
(2023年10月刊。1760円)