弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2024年1月19日
特捜検察の正体
司法
(霧山昴)
著者 弘中 惇一郎 、 出版 講談社現代新書
無罪請負人として名高い著者が東京地検特捜部を厳しく鋭く批判している新書です。
なにしろ著者は、特捜部が扱った有名な事件、村本厚子、小沢一郎、カルロス・ゴーン、ホリエモン、鈴木宗男、角川歴彦の弁護人となり、その多くで、無罪を勝ち取っています。すごいです。すごすぎます。
序文で、東京オリンピックの贈収賄があれだけ騒がれたのに、竹田恒和JOC会長(当時)とか森喜朗元首相には強制捜査すら着手していないのはどういうことか、と厳しく指摘しています。まったく同感です。
全国にいる検察官は2千人足らずで、東京地検特捜部には40人ほど。今回の自民党パーティー券裏金事件では全国から50人を応援委員として動員したそうですから、100人に近くの体制を組んでいるのでしょう。私は、秘書ではなく大物政治家こそ、ぜひ摘発・起訴してほしいと思います。安倍元首相の重しがとれた今こそ、自民党の暗部に遠慮せず鋭いメスを入れてほしいものです。ここまで書いたら、安倍派幹部(5人衆)は刑事立件しないとのニュース。残念です。おかしいでしょ。怒ります。
特捜事件は、一般の刑事事件と異なり警察による捜査を経ておらず、事件の発掘から捜査・証拠集めなどをすべてやるところに特徴がある。
特捜事件における供述調書は、基本的にすべてが検察官の作文。すでに出来上がっている供述調書にサインするよう求められるというのが珍しくない。そうなんですよね。
取り調べのなかで「可能性の存在」をまず認めさせ、それが調書では「明確な記憶」のようになっている(すり替え)のに、無理矢理サインさせる。この対抗策は、検察に呼ばれた時点で弁護士に相談すること。その弁護士も検察・警察の推薦する弁護士とか、検察とたたかえないような弁護士では役に立たない。
この本を読んで、驚いたのは、私には体験がありませんが、低額の保釈金で足りるとする意見書を検察が裁判所に提出することがあるということです。恩を売っておいて保釈されたあとも検察の手の平の上から被告人を逃がさない手法だそうです。低額というのは100万円です。裁判所では、お金の価値が下がっていて、ちょっとした傷害事件でも保釈保証金が100万円を下回るなんてことはまずありません。
カルロス・ゴーンの保釈を申請したとき、裁判官が「なぜ、奥さんにまた会いたいのですか?何を話したいのですか?」と質問したそうです。信じられません。でも、この質問は今の日本の裁判官の多くのホンネそのものをあらわしていると思います。要するに、日本の裁判官は世界の常識とは別の世界に住んでいるのです。ただし、本人たちは、まったくそのことを自覚していませんが...。
先進諸国のなかで、刑事事件の取り調べに弁護人の立ち会いが認められていないのは、日本くらい。お隣の韓国でも、とっくに弁護人立会が認められていて、それで何も問題は起きていないと聞いています。
任意の取り調べに応じるとき、ボイスレコーダーでこっそり録音するというのは決して違法ではありません。うまく身体検査をくぐり抜けて、どんどん録音して、実態を暴露してほしいです。
メディアとどう向きあうかは、刑事弁護にとって大きな課題。世論を味方につける努力はやはり必要で、そのためには、被告人の言い分をメディアに理解してもらい、正確に報道してもらう必要がある。
しかし、これは口で言うのは簡単ですが、実際にはいろんなことの配慮が求められ、簡単なことではありません。弁護人の自宅まで「夜討ち朝駆け」なんかされたら大変です。
検察は検察側証人には証人テストを繰り返し、検察がつくったシナリオの丸暗記し、それを法廷で再現させられます。このような検察側のシナリオ尋問に応じた証人が偽証罪で起訴されたことはありませんし、されることもありえません。それが日本の司法の現実です。
この本のほとんどは私もまったく同感ですが、現在進行中の自民党パー券裏金問題では、東京地検特捜部が自民党中枢にまでぜひ強制捜査をして徹底的にウミを出し切ってほしいと心より願っています。安倍元首相の下でのモリ・カケ、サクラ事件についてのみじめな特捜部敗退の雪辱を果たしてほしいものです。
(2023年7月刊。税込み1100円)