弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年1月14日

極楽征夷大将軍

日本史(室町)


(霧山昴)
著者 垣根 涼介 、 出版 文芸春秋

 植木賞受賞作品です。といっても私は、賞をもらった本だから読んでみようと思うことは、まずありません。書評を読んで面白そうだと思えば読んでみることにしています。その意味では同じく直木賞をもらった『木挽町(こびきちょう)のあだ討ち。』(永井紗耶子)には、ぐいぐいと書中の世界に引きずり込まれてしまいました。たいした力技(ちからわざ)の作家だと、ついつい唸ってしまいました。
本書も、よく出来ています。ともかく面白くて、ええっ、室町幕府を始めた足利尊氏って、こんな人間だったの・・・と、思わず首を傾(かし)げてしまったものです。それでも、戦(いくさ)になると、勝ってしまうし、周囲に武士たちが集まってくるのです。「やる気なし、使命感なし、執着なし」。これが足利尊氏だったというのです。呆れてしまいます。
 足利家には家政を取り仕切る高(こう)一族がいました。また、上杉家もまた足利家に仕える郎党。足利家を高家と上杉家が支えながら、さまざまな困難を乗り越えていきます。その過程が実に生き生きと描かれているのですが、結局のところ、勝利してしまえば、お定まりの内紛が始まります。鎌倉幕府において源頼朝が死んだあと、北条家が執権として全権を握りますが、次々に「邪魔者は消せ」とばかりに北条家に敵対し(そうな)武士集団は排除されていくのです。「鎌倉殿の13人」というテレビドラマが、それをテーマとしたようですね(私はテレビは見ません)。
 鎌倉の北条政権と敵対し、戦いに敗れて隠岐の島に流されていた後醍醐天皇が、ひそかに島を脱出して、倒幕の兵を厳げた。
 足利家は、源氏の嫡流に最も近い血筋の御家人だという強烈な自負心がある。むしろ、本来なら、平氏の木っ端に過ぎなかった得宗家(北条家)より以上に鎌倉幕府を引き継ぐ資格がある。足利「高」氏は後醍醐天皇から「尊」氏という名前を授かった。しかし、天皇は、尊氏を権力の中枢には近づけないようにした。そして、天皇が恩賞を与える権限をひとり占めにして次々と行使していった。まったくの身内優先。これには「選にもれた」武将たちの怒りと不満は当然のこと。
 足利尊氏が南朝と敵対しているとき、北朝を創立するのに活躍した公卿(日野資名(すけな)がいた。日野家は、歴代の足利将軍家に次々と正妻を送り込み、公卿としての権勢を極めた。史上もっとも有名な正室は八代将軍・義政の妻・日野富子。悪名高いというべきなのでしょうか・・・。
 征夷大将軍に就任したあと、向こう見ずな蛮勇を発揮したのは日本史上で尊氏のみ。さすがは変わった大人物でした。面白く読み通しました。
(2023年8月刊。2200円)

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