弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年12月23日

海賊たちは黄金を目指す

ヨーロッパ


(霧山昴)
著者 キース・トムスン 、 出版 東京創元社

 海賊の書いていた日誌をもとに、その海賊生活を再現した異色のノンフィクションです。
 海賊7人の日誌をもとにカリブの海賊のありのままの世界を描くと本のオビにあります。
 いったい、海賊がこんなに詳しい日誌を書くものだろうかという疑問を抱きましたが、実は海賊といっても学問のある若者もいたというのです。これもまた驚きです。そして、内容は日誌というから無味乾燥かと思うと、さにあらずです。血沸き、肉踊る、海賊たちの活劇が展開していくのです。もちろん、海賊の多くは哀れな末路をたどり、しばり首になったり、早々に処刑されてしまいます。
 海賊を裁く裁判において、法廷には被告人側弁護人がいない。1696年より前は、被告人が弁護士を雇うことは禁止されていた。そのうえ、被告に不利となる証拠は裁判が始まるまで本人には伏せられていた。予備知識なしでそれに接したら、人は正直な反応を見せるというのが理由だった。
「率直で誠実な弁護」をするのに特別な技術は必要としない。もし被告人が助けを必要としたら、判事がその面倒をみることになっていた。いやあ、それはないでしょう。
 被告人が死刑に処せられるときは、「マーシャルズ・ダンス」をさせられる。特別な巻き方をしたロープを使うと、首を絞められても頸骨が折れず、海賊は首を吊られたまま絞首台で激しく暴れる。それがダンスをしているように見えることから名づけられた。うひゃあ、これって、いかにも残酷ですよね...。
 海賊は捕虜にした人間すべてに、かたっぱしから質問をぶつけるのが習いだった。生まれ故郷、都心そして地方のこと。その結果、各地の製造業、資産、防衛施設、軍事力、弱点といった情報が、いかなる諜報組織がまとめる調書にもひけを取らないほど充実する。海賊船は、いわば海に浮かぶ国政調査局なのだ。
 壊血病は、ずっと早くから医学界では認知された。皮膚がウロコ状になったり、病斑が浮き出たりする病気で、船乗りたちが一度に数カ月もの長旅に出るようになった15世紀から発症した。崗や船の難破そして戦闘人上に、この病気で命を落とす人々が多かった。その治療に柑橘類が有効だとイギリス海軍が突きとめたのは1796年のこと。それからは船旅をする人は、ライム果汁に1.5オンスの砂糖で甘味をつけたものを毎日とるようになった。
 スペイン人という共通の敵を前にして、イングランド人から成る海賊たちと、現地のクナ族とが手を結んだ。ジャングル内の道なき道を進んでいくとき、お互いに疑心暗鬼に陥っていた。ひょっとして現地民のクナ族はスペイン人に引き渡そうとしているのではないか...。
しかし、クナ族の王は、海賊の力を借りて、スペイン人に連れさられた自分たちの娘(プリンセス)を奪還しようとしていた。実は、娘とスペイン人は相思相愛の関係だった...。
海賊たちのモットーは、「短いながらも愉快な人生」というもので、「絞首刑になるために生まれてきた」という本のタイトルどおりの人生だった。
陸(おか)の厳格な階級社会とは異なり、海賊の暮らしは平等主義が基本。船長の選出や罷免は投票によって民主的に決められる。
遠征に出発するときには、契約書が作成され、そこには「労働災害」に対する補償まで細かく定められていた。
海賊船には船医が乗っていた。船医がいないときには船大工が船医を代行する。
この本は、1680年から1682年までの2年間の海賊の生活を明らかにしている。詳しい日誌を書いた1人は、優秀な数学者であり航海士だ。英語、ラテン語そしてフランス語を流暢に託した(リングロース、27歳)。もう1人は、28歳の博物学者(ウィリアム・ダンロア)。
船員雇用契約書には、武器を常にきれいに保ち、いつでも戦闘にのぞむ用意をととのえていない者は捕獲物の取り分を失うとともに、船長や仲間の決める懲罰を受ける。敵船に乗り込む仲間の援護射撃が必要なときに銃のぜんまいがさびて撃てなかったら、その者はただではすまないと明記されていた。
報酬に関しては、「犠牲なくして報酬なし」と定められていた。まずは船医や船大工という技術職にその職能にみあった報酬を渡し、残ったものを、みんなで山分けする。船長や上級船員は、その階級にあわせて追加報酬があった。
そして、「労働災害」で左腕を失った者は奴隷5人、右腕を失ったら奴隷6人を受け取ることになっている。
ジャマイカで船に乗っていた海賊17人が副総督モーガンの邸宅に招待され、豪華な夕食をとることになった。そして、モーガンは、彼らの武勇伝を熱心に耳を傾け、聞き入った。海賊たちは、酔って、いい気分になって次から次へ武勇伝を語り出した。そして、翌朝、全員が手錠をかけられて海事裁判所へ連行された。判事席にはモーガンがすわっていて、ただちに有罪を宣告し、その日のうちに全員が処刑された。
こんな話って、本当に実話なのでしょうか...。まあ、ともかく、海賊の実態を知ることのできる本として、最後までドキドキしながら仏検(フランス語の試験)のあと、素速く読み通しました。
(2023年7月刊。2700円+税)

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