弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年12月16日

動物写真家の記憶

生物


(霧山昴)
著者 前川 貴行 、 出版 新日本出版社

 いつも、すごい動物写真を撮っている写真家が自分の撮った写真とともに自らの半生を振り返っています。何よりド迫力の動物写真がすばらしいです。
グリズリー(クマ)の写真を夢中になって撮っていると、もう1頭、別のグリズリーが近くにやって来た。気がついたときは絶体絶命。もはや逃げる場所はない。走って逃げようとしても、逃げ切れるはずもない。その気になったクマが走るスピードは、想像をはるかに超えた次元だ。
 目の前にやってきたグリズリーが横目でちらりと見る。でも、その表情はずいぶん穏やかだ。どきどきしながらも、おそらく大丈夫だろうという感が頭をよぎった。グリズリーは何事もなかったように通り過ぎていった。
 うひゃあ、こ、怖いですね...。臆病な私には、とてもこんなことはできません...。
 著者は26歳のとき写真家を目指し、それまでしていたエンジニアの仕事を辞めた。そして写真家の助手をつとめ、30歳で独立した。
 野外の至るところで待ち構えているのが、ダニ。草木の密集したところで撮影していると、身体のどこかに喰いつかれている。右目の視界がボヤけてきたので調べてみると、まつ毛の根元にダニが喰いつき、成長していた。無理やり取ると、ダニの頭が人間の皮膚の中に残ってしまう。これもまた怖いですよね。
 アフリカの大地でキャンプをしていて、夜中にテントから出て用を足しに行ったとき、うっかりサスライアリの行列を踏みつけ、そのままテントに戻った。すると、テント内にサスライアリの大群が押し寄せてきた。靴に取りつき身体を登り、皮膚にかみついてくる、容赦のない攻撃の痛みは強烈そのもの。ダニよりもヒルよりも、サスライアリの恐怖は群を抜く。テント内でサスライアリの大群と大立ち回りをせざるをえなかった。うひゃあ、こんな怖さもあるのですね。
 未知の生き物たちとの出会いが待っている。必ずしも友好的なコンタクトばかりではないが、ほとんどがこちらの出方次第。それを十分に学んだつもりになっていても、唐突に覆されることがあるのが野生の怖さであり、面白さであり、また醍醐味でもある。
 できることは、用心深く慎重に行動することのみ。でも、貴重な出会いに舞いあがってしまい、後先考えずに大胆になってしまうことは多い...。
 どこに行っても現地の人々とのコミュニケーションが欠かせない。でも、野生動物と同じく、人間だって多様性にあふれている。日本人だって外国人だって、さまざまな人がいる。それは世界共通で、国は関係ない。それはそうでしょうね。
これからも安全と健康に気をつけて、どんどんいい写真を撮って紹介してください。
(2023年3月刊。3100円+税)

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