弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年11月28日

関東大震災と民衆犯罪

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 佐藤 冬樹 、 出版 筑摩選書

 関東大震災のあと、官製のデマ(内務省つまり国が意図的に嘘と分かってデマを大々的に流しました)に踊らされた日本人民衆が無差別に朝鮮人など(中国人もいて、日本人の社会主義者なども含まれます)を大虐殺していった大惨事の内情を明らかにした本です。
 官製デマを発信した国の責任、そして、それを無批判に受け入れてタレ流したマスコミの責任を鋭く告発していますが、同時に、それに乗って狂気の無差別大量殺人を敢行した日本人民衆の責任も追及している本でもあります。
 この大虐殺事件について、殺人罪などで640人の日本人が起訴され、ほとんどが有罪となった。その被害者は「400人」以上。しかし、司法当局は大量殺人事件なのに、その捜査に熱心ではなかったし、犯人全員を検挙したわけでもない。民衆を刺激したくなかったからだ。
数百いや数千人の日本人民衆が警察署に押しかけ(30件)、そのうち11件では警察署内に乱入してまで留置場内に保護されていた朝鮮人を虐殺(竹槍や日本刀でなぶり殺し)した。
 朝鮮人虐殺を生み出したのは、警察だと名乗る自動車が「朝鮮人200名が押しかけてきて町を焼き払おうとしているから、それに備え、警戒しろ」と呼びかけたことにある。
 警察(正力松太郎)は、そんな事実はないことを確かめたうえで、このデマを「あっちこっちで触れてくれ」と新聞記者に頼んでまわった。デマと虐殺の拡散において、警察と新聞各社は共犯関係にある。恐怖と不安に取りつかれた民衆は男も女も凶暴そのものと化した。
 警察がデマを承知で広めたのは、このころ朝鮮独立運動が活発になって、日本が朝鮮を植民地としての支配を続けられるのか心配していたから。
 朝鮮人虐殺を敢行した日本人民衆は、「善良な国民(日本人)」だった。その職業は多種多校であって、下層民衆ではなかった。中間層か、それ以上の階層の人々も少なくなかった。
 民衆による朝鮮人大虐殺が進行するなか、9月6日、治安当局は、ようやく朝鮮人の殺害を犯罪だと明言した。
 そして、あとでは、民衆による虐殺はあったし、それは逮捕・起訴して、刑事上の責任は裁判と対象となった(ほとんどが有罪となったものの、早々に刑務所から釈放された)。
関東周辺で結成された自警団は、3700団、平均人数65人だったので、少なくとも70万人の武装民兵が組織された。自警団の中核は消防団員だった。関東の自警団員の6割以上は、消防団員だった。自警団は、人事前でも経営面でも公営団体だ。
 自警団による朝鮮人虐殺(犯罪)の4つの特徴...。
その1は、徹底した攻撃性。武器を何一つ持たず、無抵抗の人々を殺し続けた。
その2は、性別も年齢も問わず、朝鮮人すべてを襲撃した無差別性。乳幼児や妊娠中の女性さえ惨殺した。
その3は、警察への反発。警察署まで襲撃した。
その4は、群衆による犯罪。
自警団にとって、朝鮮人は、震火災にともなう、あらゆる災厄の源だった。
日本人が自警団によって殺害されたのは、無差別殺人にともなう、必然だった。
警察、そして国は、朝鮮人虐殺事件の責任一切を住民と自警団に押しつけた。マスコミも、それを受け入れて大々的に報道した。
日本人被害者の7割は、工場や会社、警察、軍隊に属する人々だった。農民や漁民はまったくいない。
善良な民衆が、ある日突然、凶暴な犯罪集団と化し、そのおかした犯罪について弁解し、合理化し、隠匿し、ひいてはそんなものはなかったとまで開き直ってしまったのです。デマって、本当に恐いですよね。
 
(2023年8月刊。1800円+税)

 晩秋の候となり、紅葉が美しく見頃です。先日、上京したとき日比谷公園のイチョウが実に見事なので、つい見とれてしまいました。
 庭にフジバカマを追加して植えました。アサギマダラが来てくれることをひたすら願っています。
 庭で掘り上げたサツマイモを2週間たったので、オーブンで焼いて食べました。小ぶりなのですが、ほどよい甘さのものもあり、法律事務所に持参して、所員のみなさんに持って帰ってもらうことにしました。
報道によると熊本に新しく立地する台湾の半導体メーカーに国は1兆円も投下するそうです。でも、肝心な部品の生産は台湾でするので、日本へ技術移転することはないそうです。日本の司法予算は3222億円なのです。その3倍も民間企業にくれてやるとは...。地下水汚染も心配です。

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