弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年11月27日
「利他」の生物学
生物
(霧山昴)
著者 鈴木 正彦 ・ 末光 隆志 、 出版 中公新書
人間にとって腸内細菌の多様性を保持したほうが病気になりにくい。そこで、腸内バランスの改善のため、健康な人の糞便を移植するという治療法が注目されているそうです。健康な人の糞便を溶かして大腸に直接挿入したり、カプセルに入れて口から摂取したりします。
腸内細菌とヒトの免疫系はお互いに協力しあって、外部からの菌の侵入を防いでいる。腸内細菌は、直接、病原菌を駆除することもしている。
腸内細菌は、脳と密接に関わっていて、感情面にも影響している。そもそも脳は腸の先端部分が進化した器官とも言われている。腸には、腸管を取り巻く腸管神経系があり、腸管神経系は5000万個の神経細胞から成り立っている。腸管神経系は迷走神経系と密接につながっていて、迷走神経系は脳にもつながっている。
精神を安定化するホルモンとして知られるセロトニンは腸管でつくられる。これには、腸内細菌のビフィズス菌が関わっている。ビフィズス菌はセロトニンを自らつくり出す。このセロトニンは、迷走神経の発達を促して、脳を育てている。
植物の9割は、何らかの菌根菌と共存している。どの菌根菌も、植物と共生しないと生きていけない絶対共生性の菌類。外生菌根菌としては、あの有名な松茸、フランス料理に使われるトリュフ、イタリア料理のボルチーニなどが有名。これらが高価なのは、生きた植物にしか共生できないというのが、大きな理由。
原始地球の環境は、高温かつ酸素が少なかった。今でも、この原始地球環境に似た場所がある。深海にある熱水噴出孔周辺。栄養分の乏しい熱水噴出孔周辺には、ジャンルの生物量に匹敵するほどのものがある。なぜか...。口も消化管も肛門も持たないチューブワームは、口がなくてもエラから硫化水素や酸素を吸収できる。
花と昆虫は、お互いに利他的で、仲が良さそう。でも、実は決して安穏な関係ではない。なぜなら、両者の目的が異なるから。花は甘い蜜や栄養豊富な花粉を用意して昆虫の訪花を待つ。その目的は、あくまで花粉を運んでもらうため。
昆虫にとっては、花粉の運搬なんて、どうでもよいこと。花の蜜や花粉さえもらえればよいことなのだ...。
花と昆虫、そして人間の身体までを広く統一してとらえることのできる本(新書)です。
(2023年7月刊。880円+税)