弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年11月13日
私の職場はサバンナです!
アフリカ
(霧山昴)
著者 太田 ゆか 、 出版 河出書房新社
南アメリカ政府公認、そしてただ1人の日本人女性サファリガイドである著者がサファリを案内してくれる、読んで楽しく元気の出てくる本です。
サファリとは、ヒスワリ語で「旅」という意味。大自然の中で、野生動物を観察しに行くアクティビティのことです。
サファリガイドは午前3時45分に起床し、4時15分に出勤(といっても自宅兼職場)。サファリに出発するのは午前5時。3~4時間ほどのコースです。戻って午前9時に朝ごはんを食べて休憩し、午後4時ころから2回目のサファリに出発します。同じく3~4時間かけます。夜8時に仕事を終え、ときにはツアー参加者と一緒に食事。
自宅といっても、著者は同僚6人との共同生活(部屋は個室)なので、夕食は交代制でつくります。
著者は子どものころの夢は獣医になることでした。でも、理系科目が苦手だったのであきらめて、環境保護の分野へ転身。サファリガイドの訓練校があり、南アフリカ政府公認のガイド資格があることを知って、まだ英語に自信はなかったものの、大胆にも入学したのです。
この訓練校では、実地での教育・訓練と教材を使っての授業を受けます。英語の授業はついていけなかったので、スマホで録音して夜に自分のテントで聞き直します。
このとき、「生まれて初めて、勉強をするのが楽しいと心から思えた」とのことです。やはり、目的意識がはっきりしていたからでしょうね。
6ヶ月間の訓練のあと、サファリガイドになるための試験を受けました。200種類以上の鳥の鳴き声を覚え、鳴き声を聞いたら、すぐに鳥の名前を言わなくてはいけません。また、動物の足跡を見て、動物の種類、右足か左足か、前足か後ろ足か、どれくらいのスピードで歩いているかを答えます。
著者は、なんと、1回でパスしました。次は、6ヶ月間の実習。すぐに実際のツアーを案内させられました。これで無事に終了しても、次なる難関は、就職先が見つからないということでした。
外国人(日本人)であることは不利。道なき道をサファリカーで進むなんて女性に出来るはずがない、パンクしたタイヤの交換ができるのか...。そんな偏見にあい、困難にもめげずに探していたら、環境保護のボランティアを運営する団体にめぐりあえ、ついにサファリガイドとしてスタートできたのでした。日本の両親は猛反対でしたが、結局は、渋々、追認してもらったとのこと。すごいです。
私はNHKテレビ『ダーウィンが来た』を毎週欠かさず楽しみにしていますので、ライオンの生態も少しは知っているつもりでしたが、ライオンのオスは8頭のうち1頭しか無事に大人になることが出来ないというのには驚きました。
また、ライオンを狙った密猟も知りませんでした。ライオンの歯や爪を装飾品にする、骨はトラの骨の代替品として、伝統薬として高値で取引されているとのこと。ひどい話です。
過去を20年間で、ライオンは43%も減少したといいますので、半減したわけです。まったく人間は罪つくりの存在です。
密猟対策として、サイの角(つの)が狙われるので、あらかじめ切除してしまう作業がすすめられています。ところが、オスのサイは角で戦って、メスを得るわけですので、その武器を取り上げてしまったら、どうなるのかが心配されているとのことです。悩みは尽きませんね...。
「大好きな動物を守る」という幼いころからの夢を実現し、サファリガイドを始めて7年たった著者による若さと喜びにあふれたレポートです。ぜひ、サファリ・ツアーに行ってみたいと思いました。でも、朝5時出発して、3時間とは...。
(2023年5月刊。1562円)