弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年10月30日

なぜヒトだけが老いるのか

人間


(霧山昴)
著者 小林 武彦 、 出版 講談社現代新書

 ヒトは、偶然に生まれ、楽しく過ごして、いつかは必ず死ぬ。
 ヒト(動物)とバナナ(植物)の遺伝子は、50%だけ同じ。これは、かなり昔に共通のご先祖様から分かれたということ。
 ヒトとチンパンジーは見た目はかなり違うが、遺伝子は98.5%が同じ。600万年前に共通の祖先から分かれた。
 現存のすべての生物はリボソームを必ずもっている。
 DNAとRNAは、ほぼ同じ構造だが、RNAに比べてDNAは反応性が低く、安定で、壊れにくい。
 生物は進化の結果できたので、死がないとそもそも進化できず、存在しえない。つまり、「なぜ死ぬか」ではなく、死ぬものだけが進化できて、いま存在している。生物は、最初から死ぬまでにプログラムされて生まれてきた。これが、すべての生き物に必ず死が訪れる理由だ。残念な事実ですが、個体の死があるからこそ、全体が進化していくわけなんですね...。
 野生の生き物は基本的に老化しない。ヒト以外の生物は老いずに死ぬ。
 サケでは、老化は突然やってくる。ゾウも老化しない。がんにもほとんどかからない。老いたゾウは存在しない。ゾウが60年以上も長生きするのは、傷ついたDNAをもつ細胞を修傷して生かすのではなく、容赦なく殺して排除する能力に長(た)けているから。
 ヒトでは、加齢とともに徐々にDNAが壊れ、遺伝情報であるゲノムがおかしくなる。その結果、細胞の機能が低下し、老化して死ぬ。DNAが壊れてくると、細胞がそれを感知して、積極的に細胞老化を誘導する。
 ヒトの心臓の細胞(心筋)は、大きく太くなることはあっても、新しいものと入れ替わることはない。
 日本人の平均寿命は、大正時代に比べて2倍になった。栄養状態や公衆衛生の改善によって、若年層の死亡率が低下したことによる。
 寿命30年のハダカデバネズミは、生涯がんになることがない。ヒトも55歳まではほとんどがんにはならない。
 ヒトの「老い」は死を意識させ、公共性を目覚めさせる。
 シロアリの女王は数十年生きるとみられているが、王アリも女王と同じように長命だ。
 2022年の1年間の日本人の出生数は80万人を下回った。1963年の180人から100万人も減っている。
 高齢者とは、75歳以上の人々を言うべきだと著者は提唱しています。いま74歳の私も大賛成です。
 老化現象、そして死について考えてみました。怖がることなく受け入れなければいけないようです。でも、実際に自分に振りかかってくると、そうとばかりも言えませんよね。
(2023年6月刊。990円)

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