弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年10月14日
ナイル自転車大旅行記
アフリカ
(霧山昴)
著者 ベッティナ・セルビー 、 出版 新宿書房
52歳のイギリス人女性がナイル川の源流まで一人で自転車旅行した体験記です。
ときは1986年のこと。カイロに着いたのは11月初め。7200キロに及ぶナイル川源流への旅を思い立ったのは、前年冬に大英博物館にいたとき。といっても、著者は、その前にヒマラヤ、中近東そしてトルコを自転車旅行しています。また、フリーランスのカメラマンとして活動していたこともあります。
夫と成人している3人の子どもをイギリスにおいて、エジプトから自転車で南下していきます。
自転車はロンドンで特注したもの。著者自らデザインし、車体を鮮やかな赤に塗り、ギアは18段。現地を走ると、この赤い自転車は目立つこともあって「アーアガラ」と呼ばれた。「アガラ」はアラビア語で自転車。「アー」は感嘆のコトバ。
最少の荷物にしても、結局は30キロの重さ。今どきの電動自転車なら、スイスイでしょうが、いくら18段とはいえ、自分の足でこぐのですから大変です。
10リットル入りのプラスチック容器に水を入れ、それとあわせて、固形セラミックコアを使うスイス製浄化ポンプを携行し、これで助かったのでした。
本は持っていかない。驚くべきことに、私は絶対まねできませんが、著者は本がなくても読書を楽しむことができるというのです。ええっ、ど、どうやって・・・。
著者は学校で時代遅れの教育を受けたので、散文や詩をたくさん暗記させられた。それで、頭の中にしまってある本から、一説ひねり出すというわけ。これは、すごいことですね。
ウォークマンもスマホもありませんので、音楽を聴きながらの自転車旅行でもありません。もっとも、耳にイヤホンをつけていたら、周囲の状況を察知するのが遅れて危ない目にあったことでしょう。
猛獣に襲われるということはありませんでしたが、学校帰りのガキ連中には何度もひどい目にあったとのこと。「宿敵」とまで表現しています。いたずら小僧というのは、どこにでもいるのですね。
コース周辺の貧しい村人からは歓待されることが多かったようです。そして、英語を話せる若者がところどころにいて、助けられもしました。
イザベラ・バードというイギリス人女性が明治の初めに東北から北海道を日本人の若者を従者として一人旅しています。この女性も勇気がありましたが、この本の著者もすごいものです。エジプト奥地のきちんと舗装されているわけでもない道路を1日最高200キロも赤い自転車で走行したというのです。信じられません。
エジプトからスーダンに入り、ウガンダに入国します。どこも軍隊が反乱したり、治安の良くないところです。著者は少年兵が銃をもち、手りゅう弾を持っているのを見て怖いと思いました。ガキに鉄砲なんか持たせたら、面白半分に何をやるか分かりませんよね。少年兵はどこの国でも怖い存在です。
野外トイレは、砂と灼熱の太陽が、すべてを乾燥させるから、衛生的と解釈したというのも、さすがアフリカならではのことです。そこはイギリスや日本とはまったく異なります。
大体は1日に30キロから40キロを走るのがやっとだったと書かれています。見知らぬエジプトの地を走るのですから、それはそうでしょうね。
この当時、アフリカの女性は、6歳のころ割礼された。なかでもスーダンは徹底していた。少女の外陰部は切除され、小さな穴だけを残して、切り口はきつく縫い合わされる。なので、自然分娩(出産)するときは、陰部を切開して広げなければならないので、自宅で出産するのは難しい。いやはや、とんでもない習慣です。アフリカでは、少なくなったようですが、まだ根絶はしていないと聞いています。
このころ、アフリカの悪路を走るのは、トヨタ、三菱、いすゞなどの四輪駆動車。その優れた性能に、著者も感嘆しています。今は、どうなんでしょうか・・・。
日本の女性もタフですが、イギリス人女性も負けず劣らずタフのようです。
(1996年1月刊。2400円)