弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年10月 7日
無一文「人力」世界一周の旅
人間
(霧山昴)
著者 岩崎 圭一 、 出版 幻冬舎
著者は28歳のとき、こう思った。「このままでは人生があっという間に終わってしまう。働いてお金を稼ぐより、自分のやりたいことを優先したい」
その夢は、世界中を自分の目で見て回ること。著者のすごいところは、あえて「無一文」になって旅を続けたというところです。その無謀さと勇気に思わず息を吞みました。
著者が出発したのは2001年4月のこと。まずは東京の新宿で1ヶ月半、ホームレス生活をした。その後、9ヶ月間かけて全国47都道府県をヒッチハイクでまわった。無一文なので沖縄に渡るときは、貨物船に乗り込み、何でも下働きの仕事をするから乗せてほしいとという条件を申し出た。
ヒッチハイクしているときは、不潔感を漂わせないようにヒゲをそり、水道で体を洗えるところでは体を洗った。そうなんです。何ヶ月も風呂に入らず、シャワーも浴びないホームレス生活の人からは、なんともいえない異臭があり、同室はとても耐えられません。
2002年3月、韓国へ渡った。知人のくれた船のチケットで釜山に行く。そして、コトバも通じないのに、韓国でもヒッチハイク。そして、次は中国は渡る。いやはや、なんという度胸でしょうか。
中国で安い自転車を買い求め、自転車で南下していきます。3ヶ月以上かけてベトナムに到着。よほど身体が頑強なのでしょうね・・・。
タイでママチャリ(自転車)の2台目を購入。そしてシンガポールへ。次は、チベットに入る。朝食はビスケットにたっぷりの蜂蜜を塗ったものを食べる。ここで、日本人の同行者が出来る。
インドに入ったのは2003年11月のこと。ネパールに入ってから、著者は路上で手品の芸を演じ、もらった投げ銭を収入とするようになった。この手品ができるという一芸は著者の旅を大いに助けたようです。それも、最後には、なんとイギリスの人気オーディション番組(テレビ)「ブリテンズ・ゴット・タレント」で日本人初めてのゴールデンブザーを獲得したのです。2022年1月のこと。著者は29歳で日本を出発して20年たち、50歳になろうとしていました。途中の大事な話が抜けていました。2005年5月にはエベレストの登頂を達成しているのです。これまたすごいことです。
エベレストに登るには300万円ほどの料金を支払わなければいけません。そのうえ、もちろん装備もきちんとしておく必要があります。友人が日本でカンパを集めてくれたとのことです。
前から気になっていたのですが、こんな高山で、しかも冷凍庫なみに寒い中、トイレはどうしているのか・・・。床のない小さなテントの下に樽を置き、そこに用を足す。この樽が一杯になると、それを担いで下まで運ぶ人がいる。恐らく、極寒ですから、それほど悪臭はしないのでしょうが、これって大変なことですよね。
エベレストの頂上は8848メートル、そこで写真を撮って15分ほどで下山を開始。よほど運も良かったのでしょう。
今や著者は51歳、日本を離れて21年間、一度も日本に戻っていないとのこと。まさに国際人ですね。元気の出てくる旅行記でした。
(2023年6月刊。1800円+税)