弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年9月 1日

関東軍

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 及川 琢英 、 出版 中公新書

 終戦1年前の夏、徴兵検査で丙種合格だった叔父が招集され、中国へ引っぱられていって関東軍の兵士(工兵)となって、満州の山地で地下陣地構築にあたらされました。戦闘らしい戦闘もしないまま、8月9日にソ連軍が大挙侵攻してきて、たちまち武装解除されました。
 関東軍の精鋭部隊は南方へ転出していって、残った兵士は「根こそぎ召集」で人数だけ合わせた、戦えない軍隊でしたので、激戦の独ソ戦を経て最新兵器をもつソ連軍の前に、ひとたまりもなかったのでした。
 そんな叔父の手記をもとに『八路軍(パーロ)とともに』(花伝社)を先日出版したところ、読んだ人からは好評でしたが、残念なことにベストセラーにはほど遠い状況です。
 そんなわけで、関東軍については、同じタイトルの本(島田俊彦と中山隆志。いずれも講談社)があり、本書は格別に目新しいことが書かれているわけではありません。
 関東軍につきものだった謀略は、そもそも陸軍の常套(じょうとう)手段だった。
 謀略は、その隠蔽的な性質上、統制を困難にする要素を含んでいる。しかも、張作霖への兵器供給にみられるように、軍事顧問や特務機関、関東軍ら出先だけではなく、陸軍中央も政府方針に反する謀略に関わっていた。その結果、陸軍中央が出先の謀略を抑えようとしても説得力を持たず、出先が独走していく結果を招いた。
 満州事変での関東軍が特異なのは、独断で緊急的な事態を謀略により自らつくり出して出兵し、攻撃を続けたことである。
 陸軍中央は臨参委命という奉勅命令に準じるもので関東軍を抑え込んだが、スティムソン事件という「幸運」によって臨参委命の権威は崩れ、関東軍は、満州国樹立というそれまでにない大規模の謀略を成功させた。
 この「臨参委命(りんさんいめい)」というのは初耳ですが、参謀総長が天皇から統帥権を一部委任されて軍司令官を指揮命令するというもの。
 そして、スティムソン事件とは、アメリカのスティムソン国務長官が日本との協議を手違いで公表してしまったことから、政府が軍機をもらしたとして大問題になったというものです。
日本が戦前の中国、そして満州で何をしたのかは、もっと明らかにされてよいことだと確信しています。
(2023年6月刊。920円+税)

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