弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年8月28日
老いの福袋
人間
(霧山昴)
著者 樋口 恵子 、 出版 中央公論新社
ヒグチさんは88歳、「ヨタヘロ期」を明るく生きています。後期高齢者入りを目前にした私にとって、大変参考になる指摘のオンパレードでした。それにしても88歳で、こんな元気の出る本を出せるなんて、ヒグチさんは本当にたいしたものです。
ヒグチさんは、夫に先立たれ、独身の一人娘さん(医師)と2人で生活しています。週に2回は「シルバー人材センター」の人に来てもらって家事をしてもらいます。また、助手の人(親戚)もやって来ます。なので、孤独死の心配はしなくてすみます。
ヒグチさんは、70歳のとき、かの女性差別論者の石原慎太郎に対抗して、東京都知事選挙に出ました。わずかな準備期間なのに82万票もとったというのですから、すごいです。それにしても石原慎太郎って、ひどい男ですよね。ほとんど都知事として出勤することなく、作家業と遊びに専念していたようです。それでも、実態を知らずに(知らされずに)と知事に投票した都民が大勢いたのは本当に残念です。
それはともかく、「ヨタヘロ期」とは...。もう何をするにも、ヨタヨタ、ヘロヘロ...。フレイルとは、加齢とともに心身の活力が低下し、健康や生活に障害を起こしやすくなった状態、つまり老人特有の虚弱。サルコペニアとは、高齢になるにともない、筋肉量が減少していく現象。著者は、その両方をあわせて、「ヨタヘロ期」と呼んでいます。とてもイメージがつかめます。
「ピンピンコロリ」は理想であって、現実的ではない。実際には、ヨロヨロ、ドタリ、寝たきり往生する人のほうが多い。つまり、ある日、バタリと死ねるのではなくヨタヘロ期を通過して、何年も寝込むのが現実的。ヨタヘロ期は、朝、起きるだけでも一(ひと)仕事。80歳をすぎると、料理するのがおっくうになってしまう。
ヒグチさんが、冷蔵庫のなかのもので簡単にすませていたら、なんと、低栄養で貧血になってしまったとのこと、それは大変です。やっぱり、ちゃんと食べなくてはいけません。
そして、ヨタヘロ期になると、買い物までおっくうになってしまった。朝、起きたとき、空腹感を感じないので、料理しようという気にならず、それで買い物に行くのも面倒になってしまうのです。
ヒグチさんは、食事フレンド(食フレ)をつくって、たまに外食を一緒にするとか、「孤食」を避けるよう工夫することをすすめています。なーるほど、ですね。老いたら、できるだけ予定を入れて、「多忙老人」になり、「老っ苦う」の連鎖を断ち切る。ヒグチさんのアドバイスです。
高齢になってからも仕事があり、「自分も社会の役に立っている」と実感できることは心の支えになる。まさしく、今の私にあてはまります。定年のない弁護士のありがたみです。
ヒグチさんは、無理な断捨離(だんしゃり)をすすめません。子どもに迷惑をかけるので、ガラクタも残すけれど、少々の遺産も残したらいいというのです。これまた、一つの考えです。でも、私は子どものころから整理整頓が大好きでしたので、大胆な断捨離をすすめています。私の担当した事件ファイルは法定の保存期間を過ぎたものは、私が選別して捨て、また保存しています。ですから、50年近く前の事件も残しているものがあります。自宅の本もかなり捨てました。それでも大学生のころに読んだ文庫本も残していたりします。恐らく2万冊ほどは書庫に本があると思いますが、書庫に並べられる限りとし、それ以上のものは選別して捨てています。すぐに捨てるのはもったいないので、法律事務所にもっていって、所員に拾ってもらい、拾われなかった本を捨てるのです。前は書庫には、後列にまで本があったり、横に寝かせたりもしていました。今では、みな背表紙がすぐ読めるようにしています。そうしないと書庫においておく意味がないからです。
子どもに親が言ってはならないコトバは「あなたの世話になんかならない」とのこと。私も肝に銘じています。いずれはお世話にならざるをえないからです。
そして、親は、最後まで自己決定権を手放してはいけない。つまり、財産(家や預金)を子どもに渡してはいけないのです。私も弁護士としての経験から大賛成です。少しずつ子どもに贈与するのはいいのです。でも、全財産を子どもに渡したら絶対にダメなんです。あとは年金だけ、それも通帳管理は子どもがしているなんていうのは最悪のパターンです。
「ファミレス時代」というのを初めて知りました。ファミリーレス、つまり家族がいない人のこと。50歳児の未婚率は、男性23.4%、女性14.1%(2015年)。65歳以上の「夫婦のみ世帯」は全世帯の32.3%(2018年)。つまり、ケアを担う家族が減って、介護を必要とする高齢者は増えていくという世の中になりつつあるのです。
お互い、健康で、また楽しく過ごせる毎日でありたいものですよね...。
(2021年5月刊。1400円+税)