弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年8月24日
無限発話
韓国
(霧山昴)
著者 ムンチ 、 出版 梨の木舎
著者の正式な名前は「性売買経験当事者ネットワーク・ムンチ」です。そして、タイトルの副題は「買われた私たちが語る性売買の現場」です。
女性が自分の身体を売る(性売買)というのが、こんなにも苛酷なものなのか、思わず息を呑んでしまいます。
1日に少なくて6人、最大11人の客を取る。11人の客を取ったときは、シャワー22回、性感マッサージは水台でボディ全面11回、背面11回、肛門もマッサージしてから部屋に戻ってラブジェルなしで前から後ろから11回、本番11回、抜いてあげる(射精)は合計22回。
夕方6時から朝6時まで休みなく、洗い、くわえ、しゃぶり、体でこすって射精させるのがミッションだ。
客の支払う料金18万ウォンのうち、「私」の取り分は8万ウォン。11人の客を取ったら88万ウォン。12時間働いて88万ウォンなら、けっこうな額だ。だけど、借金を支払ったら、手元に残るのは5万ウォン。涙が出る。力が抜けて、食欲も出ない。
部屋の入口上の天井には赤いランプがついている。取り締まりがあると、音はならずに赤く点灯してクルクル回る。ランプがまわると二人とも急いで服を着て、ドアを開けて裏口から逃げる。逃げ出すのに2分以上もかかってはいけない。
店は、客のタバコ代、カラオケの新曲代、カラオケ機の修理代、おつまみの材料費、水道光熱費、部屋代を徴収する。客がチップをくれても、みな店主が取り上げる。
買春者(客)がするのは性行為だけとは限らない。お王様のように振る舞いたい、侮辱したい、あらゆるファンタジーを満たされたい、わがまま放題したい、悪態をつきたい、殴りたい...。暴力のバリエーションは無限だ。彼らはエゴイストになりに、性売買の店にやって来る。
ルームサロンでは、店主は客にばれないよう酒を捨てるよう指示する。売り上げがアップするためだ。そのことが客にバレたときは、店主は女性に全額を借金として押しつける。
タバンで女性がお金を稼ぐことができない。仕事を休んだら欠勤ペナルティ、遅刻したら遅刻ペナルティが、借金として積もっていく。半休とっても1日分として計算される。
「セックスワーク」が本当に労働として認められる仕事だと言えるためには、1年も働けば技術が身について待遇もよくなるはずだけど、1年たってみたら稼ぎも待遇も前より悪くなっている。長くいるほど、かえって、お局(つぼね)扱い、くそ客処理係をさせられる。どんな病気になっても自己責任。みんな買春者から病気を移されたのに...。
買春者は、性欲を解消するため性売買すると思われている。しかし、実際の現場では、それが第一の理由ではない。誰かから疎(うと)まれているとか、日頃感じているストレスの憂さ晴らしをしていく...。自分の中にたまった日常のカスを女性というゴミ箱に捨てていく。身近な人たちには出来ないことを、ここに来て、晴らしている。
現場の生の声を集めていて、いかにも切実すぎるほどの内容です。韓国の厳しい状況は分かりましたが、ではわが日本の状況はどうなっているのでしょうか...。世の中は知らないことだらけです。人間として生きることの大切さをお互いもっと強調する必要があると痛感しました。
(2023年7月刊。1800円+税)