弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年8月22日
50歳からの性教育
人間
(霧山昴)
著者 村瀬 幸治、太田啓子 ほか 、 出版 河出新書
この本のリーダーの村瀬幸治氏は81歳、「校長」の役を果たしています。校長の得た結論の一つは、「人と人が関わって生きていくうえで、性について知ることは不可欠だ」というもの。
小学校4年生か5年生のとき、男子を外に出して女子のみを対象として月経(生理)についての課外授業がある。男子が、精通について教えられることはない。
男性は包茎に悩み、正規のサイズに悩むことが多い、けれど、授業で、そんなのは気にしなくてよいと教わることがない。
女性の月経(生理)について、「痛み止めは飲まないほうがいい」と言われて苦しんでいる女性が今も多い。そして、女性は学校で月経、妊娠、出産など女性の性については教えられても、男性の性について教えられることはない。こうやって、男女とも、お互いに相手の性について無知のまま結婚し、年齢(とし)をとっていく。
セックスには、3つの側面がある。生殖の性、快楽共生の性そして支配の性。
50歳になると生殖の性は終わる。ところが、快楽共生の性と支配の性はとても近い関係にあり、ややもすれば簡単に「支配」に転じる恐れがある。
日本人女性の閉経(生理の終了期)の平均年齢は50歳。多くの女性は45~55歳が更年期。男性は少し幅が広く、40代~50代にかけてスタートする。
女性は卵巣の機能が低下し、そこから分泌される女性ホルモンの一種、エストロゲンの量が減る。女性の身体は、エストロゲンに守られてきた。それが分泌されなくなると、不調になりやすい。
男性では、テストステロンという男性ホルモンが減少し、それによる不調が出ることがある。
この更年期に「プレ」はない。
女性の身体を機能させているのは子宮よりも卵巣。男性の更年期もメカニズムは女性と同じで、40歳を過ぎたころからテストステロンという男性ホルモンの量が徐々に低下する。
太田啓子弁護士は「アンラーン」という考え方を指摘しています。初めて聞くコトバです。
学び直し、学習棄却、学びほぐしと訳されるそうです。過去に学習したことからくる思考の癖や思い込みを手放すという意味です。それをして初めて、新たに成長する準備が整う。
性別役割分業は過去のもの...。そうあってほしいけれど、残念なことに今でもしっかり温存されている。
太田弁護士は、不機嫌で人(妻)を動かす夫なるものを指摘しています。ずっと不機嫌で、威圧的な態度でいる、これだけで相手をコントロールできる、これも精神的DVだ。だけど、これにすぐ気がつく人は多くない。ホント、そうなんですよね...。自戒の意味を込めて、同感です。
結婚する前には、結婚してみないと、DV夫になるかどうかは「わからない」ものだとも太田弁護士は強調します。これまた、異論ありません。一緒に生活してみて分かることは、実は少なくないのです。外でデートしているだけでは分からないのです。
DV夫にも「ハネムーン期」が来て、涙ながらに謝罪して許しを請い、もう決して暴力なんかしないと約束します。そのとき、本人は、本気でそう思っているのです。でも、やがて、それが爆発期へ移行する。このパターンをたどる男性は少なくなく、有名人にもしばしば出現しています。
この本のなかで、最もショッキングなのは、次の指摘です。これには、思わず、なんていうこと...と叫んでしまいました。
世界各国でセックスの頻度と満足度を調査したら、日本は頻度も満足度も最下位。世界一セックスしていないし、しても満足していない国だ。なぜか...。日本では、セックスが男性と女性の互いの楽しみではなく、攻撃と支配の手段になっている。これでは女性がつらいのは当然のことだけど、男性も実は楽しくない。
いやあ、これだったら、日本で不倫が日常茶飯事なのは当然ですよね...。
後期高齢者に近づいている私にも、大変勉強になる本でした。
(2023年4月刊。935円+税)