弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2023年8月19日
秋山善吉工務店
社会
(霧山昴)
著者 中山 七里 、 出版 光文社文庫
作者には大変申し訳のないことですが、本棚の奥に眠っていたのを引っぱり出してきて、スキ間の時間つぶしにはなるだろうと思って読みはじめたのでした。すると、意外や意外、面白い展開で、母と子ども2人の3人家族の行く末が気になって目を離せません。それに、昔気質の頑固親父といった祖父が登場して、話はどんどん展開し、いやいったい、これはどうなるのか、頁をめくるのがもどかしくなっていきました。
父親は2階の居室にいて火災で焼け死んだため、妻子は父の実家にしばらく居候生活を始める。すると、小学生の二男は学校で火災を口実としてイジメにあい、長男のほうは悪に誘われ金もうけに走っていく。母親は職探しに奔走し、ようやく定職に就いたと思ったら、そこでも大変な目にあって...。そこに火災の原因究明に必死の警察官(刑事)まで登場してきます。父親の死が不審死だと思われているのです。
「この爺っちゃん、只者(ただもの)じゃない!」
これが文庫本のオビのキャッチコピーです。まさしく、そのとおりの役割。
「家族愛と人情味あふれるミステリー」というのは間違いありません。著者がこの本を書く前に担当編集者の3人から受けたリクエストは...。
・アットホームな家族もので
・スリリングで
・キャラでスピンオフが作れるような
・社会問題を提起し
・もちろんミステリーで
・読後感が爽やかで
・どんでん返しは必須
この本は、これらのリクエスト全部に見事にこたえています。さすがはプロの小説家です。モノカキを自称する私ですが、とてもとても、こんなリクエストにはこたえられません。やっぱり弁護士しか、やれそうもありません。
トホホ、「でもしか」弁護士なんですかね...。
(2019年8月刊。700円+税)