弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年7月19日

3.11大津波の対策を邪魔した男たち

社会


(霧山昴)
著者 島崎 邦彦 、 出版 青志社

 著者は東大名誉教授で日本地震学会の元会長です。3.11の前に、大津波への対策をとる必要があると提言したのに、上から圧力がかかってもみ消されてしまったことを明らかにして、その圧力をかけた人たちを糾弾しています。
 2002年夏、専門家たちは大津波がありうると警告した。この警告にしたがって対策をとっていたら、3.11の大災害は防げたはずだ。著者はこのように強調しています。私は、このくだりを読んで怒りに震えました。
 この提言(警告)について、当時の防災大臣が発表するのに反対し、内閣府の防災担当が発表を止めようと圧力をかけた。結局、発表されることにはなったが、その文章には「津波対策はとらなくてもよい」と読めるくだりが入れられた。
東京電力は大津波なんか起こらないと役所をだまし、津波の計算をしなかった。東京電力は福島原発が大津波に弱いことを知っていた。しかし、対策はしなかった。対策をとる代わりに、対策の延期を専門家に根回しし、役所に延期を認めさせた。そのうえ、これまで大津波に襲われたことはないと言いはじめ、だから大津波は来ないから対策しなくてもよいと役所に認めさせた。
 著者は、地震学の専門家として(権威ですよね)、3.11大津波は人災だったと断言しています。東京電力も社内では子会社に計算させていて、予想される大津波の高さは15.7メートルというのが分かっていた。実際の3.11大津波は高さ15.2メートルだったから、ほぼ予測どおり。なので、この予測にもとづいてしっかり対策をとっておけば3.11原発大事故は起きなかった。
 いやはや、東電の無責任さは犯罪的としか言いようがありませんよね。でも、東電の歴代社長たちは刑事責任を問われることなく、今ものうのうと暮らしています。許せません。
 著者は原子力ムラなるものは確実に存在すると断言しています。そして、厄介なのは、村の住人が入れ替わること。そこで、誰かが主(ぬし)となって一人で仕切っているのではない。ただ、住人は入れ替わっても、ムラの根底に存在するものは変化しない。それは、原発を推進しなくてはいけない、という空気。組織としての惰性(だせい)。「今だけ、カネだけ、自分の会社だけ(良ければいい)」という意識が貫いている。
 3.11のあと、著者は日本記者クラブでこのことを明らかにした。しかし、メディアはまったく無視した。そうなんです。原子力ムラにはマスコミも同じ穴のムジナなのです。
 地震が起こると原発は危険だと思われると、電力会社は裁判で不利になる。原発の建物や運転にストップがかかる心配がある。こんな電力会社の主張が国を動かしている。いやはや、国民の生命や健康なんか、二の次。まっ先に優先されるのは東電や九電のような電力会社の利益なのです。
東電は高さ15.7メートルの大津波に備える防潮堤をつくるのには4年の歳月と数百億円が必要になるので、武藤副本部長を先頭としてそんな対策は必要ないことにした。
 著者は政府の関わる各種会議のメンバーになっていますが、実は大事なことは政府事務局の主導する秘密会議で決まっているという実態も暴露しています。要するに、学者は表向きのお飾りの役目を果たすだけということです。これまた怖い現実です。
 政府も東電も、3.11福島原発事故の責任をとらないまま、自民・公明の岸田政権はまたぞろ原発の新増設に動き出しています。歴史の教訓に学ばず、それどころか逆行しています。選挙での投票率の低さがそれを支えています。
日本人は一刻も早く目を覚まさないと、本当に明日が危ういと本気で私は心配しています。
(2023年6月刊。1540円)

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