弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年6月21日

「事務次官という謎」

社会


(霧山昴)
著者 岸 宣仁 、 出版 中公新書ラクレ

 私も世間知らずの田舎の高校生のころ、高級官僚になって、国家を動かす歯車の一員となって、それなりの地位と収入が得られるのもいいかなと思ったことがありました。
 でも、今では法学部より経済学部のほうが人気があり、入試の難易度も優っているとのこと。なんだか残念な気がします。
 この本によると、自己都合を理由として退職したキャリア官僚(20代)は、2019年度は86人。キャリア官僚の採用は年に800人なので、1割強が辞めたことになる。2014年に31人、15年34人、16年41人、17年38人、18年64人ですから、年々ふえている。
 そして、キャリア官僚のうち、東大出身者の比率は26.6%から14.5%に下落した。それはそうですよね。あの国会審議での無様(ぶざま)な答弁、平気でシラを切る、明らかな嘘をつき通す...。見ているほうが恥ずかしくなってきます。
 キャリア官僚の激務ぶりは昔も今も変わりません。「せめて暗いうちに帰宅したい」このコトバを聞いたとき、ええっ、一体、なんのこと...、と思いました。要するに、夜も明けて白々となってからタクシーで帰宅し、ちょっと寝たらすぐ出社する、なんて生活をしているというのですよ。たまりませんよね、こんな生活は...。
そのうえ、キャリア官僚は現職のときは、それほどの高給取りでは決してありません。キャリア官僚トップの事務次官の年収は2327万円(2017年)です。民間の一部上場企業の社長は平均5千万円というなかで、事務・常務クラスを下回るのです。
 ただし、退官したあと、天下り先を「渡り」あるくと、それなりの高級優遇が待っていますので、それを含めたら、決して悪くはありません。
それよりなにより、自分たちのやってる仕事に誇りをもてない、国民に堂々と申し開きのできないことが多い、多すぎるから、キャリア官僚の志望者も中途退職者も増えるのだと思います。
国の財政赤字を問題にするとき、軍事予算が歯止めなく増大している現実、しかもアメリカの中古かつ危険な軍用機などを買わされていることはまったく問題とすることなく、福祉、教育についてだけは「自己責任」論をふりかざすなんて、本当に間違っています。前川喜平氏(元文化省事務次官)のような気骨のある人もいるはずですが、まったく見えないのが残念でなりません。
 子育てを大切にし、日本の科学・技術の振興を真剣に考えるなら、大学にもっとお金をつぎこみ、自由に伸びのび研究・開発に打ち込めるようにすべきでしょう。子ども手当とか、単発のごまかしはやめるべきです。
 ヨーロッパのある国では、大学の学生食堂は学生だったら無料で食事できるそうです。学生が大学に出てきやすくするためです。こんなことは日本でもやろうと思えば明日からでもやれるでしょう。トマホークを400発もアメリカから購入するより、よほど日本のためです。
事務次官というのは官僚のトップ。そこに、これまで厚生労働省に女性が2人いるだけというのもおかしな状況です。腹立たしい思いをしながら車中で一気読みしました。
(2023年5月刊。920円+税)

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