弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年6月 9日

元ヤクザ弁護士

司法


(霧山昴)
著者 諸橋 仁智 、 出版 彩図社

 タイトルからして、とても本当のことだとは思えませんが、実際に東京で弁護士として活動している著者は、若いころヤクザの世界に身を置き、覚せい剤中毒そして密売していたので、逮捕され刑事裁判も受けたのです。そのとき、裁判官から、法廷で「きみなら司法試験は受かると思うので、がんばりなさい」と励まされたそうです。いい裁判官にあたりましたね。
表紙に現在の精気あふれる顔写真と、ヤクザ時代の怖い顔を対比させています。本文を読むと、なるほど、同じ人間がこんなに違う、変われるものなのかを実感させてくれます。
元ヤクザといっても、その前は福島県いわき市一番の進学校(高校)で、成績優秀者に入っていたのです。つまり、基礎学力はしっかり身についていたということです。これがないと、いくらがんばっても、司法試験に合格するのは決して容易なことではありません。小学校や中学校の勉強を馬鹿にしてはいけないのです。
 では、なぜ、そんな成績優秀者がグレてヤクザになったのか...。
著者は継続力がなく、他人(ひと)に流されやすいのが欠点。コツコツ努力する継続力が欠けていた。
 私は、自分でもそれほど能力があるとは考えていませんが、このコツコツ、あきもせず継続して努力する根気良さがあるので、幾多の難試験も幸いパスすることができました。
 著者は、上京して覚せい剤、大麻に手を出しました。そして、麻雀が好きで、雀荘に入りびたりの生活を送るようになったのです。
 ギャンブルで時間と体力を浪費したから、当然、大学受験には失敗し、二浪となります。ヤクザのアニキにあこがれ、刺青を背中に入れました。シャブ(覚せい剤)だけでなく、ヤミ金で働くようになります。東京・神田のヤミ金です。
 ここで、しつこさがあれば、たいがいのことはうまくいく。これを身につけた。まあ、ヤミ金で悪いことをしただけでなく、いいことも身につけたということなんでしょうね...。
 著者は38歳で弁護士になり、現在46歳。事件処理はともかくとして、仕事をとってくる能力はひけをとらないと自負している。もちろん、昔のヤクザ稼業の人脈には頼らない。
著者は、大平光代弁護士の本を読んで発奮した。
 まず宅建試験を目ざし、次に司法書士試験に合格した。そして、司法試験も一発合格です。すごいですね...。
そのコツは、朝型の生活リズムを崩さない。ケータイをもたない。東京の仲間に連絡しない。麻雀などギャンブルをしない。これを自分のルールとした。執行猶予の判決をもらって7年間かけて司法試験に合格した。いやはや、すごいことです。
 読んでいて元気の湧いてくる本でした。人間はやはり変わることができるのですね...。
(2023年6月刊。1540円)

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