弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年5月10日

南風に乗る

社会


(霧山昴)
著者 柳 広司 、 出版 小学館

 沖縄の戦後の歩みが生き生きと紹介されている本です。アメリカ軍の支配下にあった沖縄で、沖縄の人々は本当に泣かされていました。少女を強姦しても、人々を殺してもアメリカ兵はまともな裁判にかけられることもなく、アメリカ本土に逃げてそれっきり...。日本に裁判権がないのは、昔も今も実質的に変わりません。そして、目先のお金につられ、また脅されて、アメリカの言いなりの人々が少なくないのも現実です。
 今、沖縄の島々に、自衛隊がミサイル基地を設置し、弾薬庫を増設し、司令部は地下へ潜り込もうとしています。島民はいざとなったら、九州へ逃げろというのですが、いったいどうやって九州へ行くのですか。また、九州のどこに行ったらいいというのでしょうか。
 軍隊は国民を守るものではない。軍隊は軍隊しか守らない。むしろ、軍隊にとって国民は邪魔な存在でしかない。沖縄戦のとき、先に洞窟にたどり着いていた人を遅れてやってきた軍隊が戦火の中へ追い出した。
 ところで、この本のタイトルは何と読んだらいいのでしょうか...。「まぜ」と読むそうです。文字どおり南からの風のこと。マは「良」ですから、「良い風」でもあります。
 この本に登場してくる主要な人物は3人。まず、ビンボー詩人の山之口獏(ばく)。沖縄出身の天才詩人で、日本語で書いた詩がフランスで賞をとったそうです。2人目は瀬長亀次郎。戦前、川崎市で働いているうちに治安維持法違反で逮捕され、懲役3年となり服役。終戦時は沖縄にいて、避難しているうちにひどい栄養失調になって入院した。
 戦後の沖縄はアメリカ軍政下にあり、アメリカ軍の少佐はこう言った。「アメリカ軍はネコで沖縄はネズミ。ネコが許す範囲でしか、ネズミは遊ぶことができない」
 これって、今の日本でも本質的に同じですよね...。オスプレイを押しつけられ、佐賀空港の隣に基地ができるなんて、たまりません。
カメジローは、1952年3月の立法院議員に立候補し、那覇区でトップ当選。そして、琉球政府創立式典のとき、カメジローは、ただ1人、起立せず、さらにアメリカ軍民政府への協力宣誓を拒否した。
 いやあ偉いです。勇気があります。君が代斉唱の拒否どころではありません。
カメジローは、演説中は一切メモを見ない。終始、聴衆に自分の言葉で話しかける。独特のユーモアと明るさ、庶民性を兼ねそなえている。カメジローの演説は聴き手にとって、胸のすく思いのする、またとない娯楽だった。
「海の向うから来て、沖縄の土を、水を、そして沖縄の土地を勝手に奪っているアメリカは、泥棒だ。泥棒はアメリカにはいらない。アメリカは沖縄から出ていけ」
 アメリカ軍政下の沖縄です。ユニーク、かつ大胆なカメジローの演説は聴衆のどぎもを抜いた。
沖縄では、アメリカ兵がどんな重大犯罪を犯しても、日本の法廷で裁かれることはなく、非公開の軍事法廷で裁かれ、判決結果は公表されず、被害者へ知らされることもない。殺され損の泣き寝入り。これは本質的には今も変わらない。アメリカ軍に代わって日本政府がなぜか肩代わり補償するようで、まるで植民地システム。
1954年10月、カメジローは逮捕された。容疑は犯人隠匿(いんとく)幇助(ほうじょ)。不法滞在の人間を匿ったという罪。沖縄人民党員の活動をアメリカ軍が嫌ったというのが、実質的な逮捕理由。有罪となり、直ちに刑務所へ収監。控訴・上告のない一審制。
刑務所から出獄して8ヶ月後、カメジローは那覇市長に当選。アメリカ軍は、カメジロー市長の那覇市にはお金を支給しないと宣言。すると、那覇市民は、自らすすんで納税にやってきた。500メートルもの市民の行列ができ、納税率はなんと97%。銀行が税金の預りを拒否したため、大型金庫を買って、職員が交代で番をした。日本全国から5千通をこえる応援の手紙が届いた。いやあ、泣けてきますよね。アメリカ軍の言いなりにならない、我らがカメジロー市長を応援しようと心ある市民が立ち上がったのです。
そして、ついに市長不信任が可決。するとカメジロー市長は議会を解散して選挙へ。その結果は、カメジロー派の議員が6人から12人に倍増。反カメジロー派は7議席も減らした。
そこでアメリカ軍政府は、カメジロー市長を追放し、被選挙権まで奪った。このときの市長追放抗議市民集会には10万人をこえる市民が集まった。この集会でカメジローは勝利を宣言した。
「セナガは勝ちました。アメリカが負けたのです」
市民が投票で選んだ市長を、アメリカの任命した高等弁務官の意にそわないからといって追放するだなんて、「民主主義の国、アメリカ」が泣きますよね...。でもこれがアメリカという国の、今も変わらない本質だと私は思います。
カメジローの不屈な戦いは、岸田政権のJアラートを頻発し、「北朝鮮は怖いぞ、怖いぞ」と思わせて大軍拡路線に突っ走っている現代日本で、待って待って、と声を上げ、平和を守ってともに闘いましょうという勇気をわき立たせてくれました。思わず元気の湧いてくる本です。ぜひ、あなたにご一読をおすすめします。
(2023年3月刊。1800円+税)

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