弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年5月17日

地方弁護士の役割と在り方(第1巻)

司法


(霧山昴)
著者 千田 實 、 出版 エムジェエム出版部

 田舎弁護士(いなべん)を自称する岩手県一関市で活動している若者が80歳になって刊行した記念本の4冊目。
 若者は60歳から70歳までの10年間に10回をこえる手術を繰り返し、週3回の人工透析、妻から腎臓の移植を受けて健常者に近い状態に戻れたとのこと。それだけでもすごいことですね。
 ちょっとマネできないのが月に1回の事務所便り(「的外」まとはずれ)です。送付先は1000人をこえ、この32年間、一度も休んでいないそうなのです。10年間の闘病生活中も発行していたというのですから、まさしく超人的です。
 手持ち事件は常時300件、ピーク時には500件。1日10件をこえる裁判を予定していて、訟廷日誌には用紙を張り足していた。そして、裁判所も盛岡、花巻、気仙沼、仙台など...。1日に4ヶ所の裁判所を駆け回ることも珍しくなかった。私も若いときがんばってましたが、これほどではありません。
こんな働き過ぎで著者は身体をこわし、糖尿病、高血圧症、そして慢性腎不全症となり人工透析を受けるようになった。
 事務員はいつも10人ほどいた(今は7人)。
 30年ほど前(1990年)、一関市内の弁護士は4人、今は9人。岩手県弁護士会は44人が102人となった。ところが、人口は気仙沼市は30年前に10万人だったのが、今では6万人を下回っている。裁判件数も当然のことながら減少した。
そこで、田舎弁護士(いなべん)は提唱する。
 地方弁護士は裁判事件だけにとどまっていてはダメ。新たな仕事を開拓しなければいけない。たとえば、地方弁護士は家庭医的存在とならなければならない。
地方弁護士は本当に人好きにならなければならない。人好きになれば、自然に優しい顔になる。
地方弁護士は、住民があっさりと相談できるようなムードをつくらなければならない。住民が気軽に相談できるように自分を磨いておかなければならない、物事の道理をわきまえ、正しく判断し、適切に処理する能力をもつ知恵者を地方住民は求めている。これなんかは、大都市に住む住民だって同じでしょう...。
一緒に悩み、一緒に考えてくれる弁護士を住民は求めている。これも、田舎弁護士に限りませんよね。
 地方弁護士は、人間が幸せに生きていくうえで必要なことの全面にわたって知恵を提供することを仕事とすべきだ。まったくそのとおりだと私も思いますが、これまた、「いなべん」だけでなく、あらゆる弁護士にとって求められているものと思います。
 私は「政治改革」も「郵政改革」もまったくの間違いだったと今も考えています。小選挙区制導入なんて、ひどい政治をもたらしただけです。大阪の「維新政治」は、そのひどい政治のミニ版を再現しています。許せません。そして「郵政改革」。郵便配達がひどく遅れていて、法律事務所の業務遂行に支障をもたらしています。あと、国鉄の解体・民営化もひどい間違いでした。
 自民・公明の政権って、本当に悪政のかぎりを尽くしていますが、それも投票率が4割程度しかない現状が支えています。有権者のみんなが投票所に足を運べば(期日前でもかまいませんが...)、自民・公明そして維新のごまかし、冷たい政治にストップをかけることができます。あきらめたら、世の中は悪くなるばかりなんです。
 「司法改革」については異論もありますが、貴重な提言がたくさんある小冊子です。
(2023年4月刊。1650円)

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