弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年4月21日

ハルビンからの手紙

中国


(霧山昴)
著者 早乙女 勝元 、 出版 草の根出版会

 「マンシュウ国って、どこにあったんですか?」
これは、著者が30年も前に高校生から出た疑問だそうですが、今もきっと同じでしょうね。日本が、かつて13年間も、中国の東北部を占領して、勝手に「政府」を作って植民地支配していたという事実は、今やすっかり忘れ去られているような歴史です。
 その忘却を前提として、アベやサクライなどは「自虐史観はやめよう」、「いつまでも謝罪する必要なんてない」とウソぶいているのです。でも、過去の歴史にきちんと向きあわない人は、将来も再び過ちを繰り返してしまうでしょう。
 戦前の中国東北部を日本は満州と呼んでいました。日本の3倍ほどの面積に、人口は3千万人。豊富な資源を内蔵していました(お金になるアヘンの生産地でもありました)。
 そこに、日本は強引に進出し、日本企業を展開させ、農地を取り上げて開拓団を置いて行ったのです。しかし、そんな悪事が長続きするはずもありません。「満州国」は13年ばかりで消滅しました。その結果、日本人の開拓団そして青少年義勇軍は、関東軍という「精強な軍隊」が「張り子の虎」となっている現実の下、ソ連赤軍の猛攻の下に瓦解し、避難民として逃げ惑う中、何万人もの日本人が死んでいったのです。
 この本の舞台となったハルビンには関東軍が全面的に協力していた「七三一部隊」がありました。悪魔の細菌戦をすすめるために中国人など3000人も人体(生体)実験し、全員を殺害してしまったという悪魔そのものの部隊です。
 関東軍はハルビン郊外に、この一大細菌生産・人体実験工場をつくるため、80平方キロの土地を特別軍事地域として指定した。そのため、1600戸もの現地農民を強制退去させた。七三一部隊からは逃亡者こそ出ていませんが、ペストなどの病原菌がもれ出ていって、周辺の中国人農民や日本人開拓団に病気までもたらしました。
 日本が中国で悪いことをしたこと、それを今なお謝罪するのは当然だということを改めて思い知らされる本でした。
(1990年7月刊。1300円+税)

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