弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年4月19日

シチリアの奇跡

イタリア


(霧山昴)
著者 島村 菜津 、 出版 新潮新書

 シチリアの産業界でマフィアに支払うみかじめ料について公然と語るのは完全なタブーだった。
 私は、これは現代日本でも同じだと考えています。大型公共工事で、暴力団に「寄付金」、「地元対策費」「周辺調整金」など、様々な名目で今なおゼネコンはみかじめ料を支払っているのではありませんか...。そして、建設業者の談合はなくなっていないのではありませんか...。
イタリアのマフィアが最初に管理したがるのは選挙。これはマフィアの武器でもある。これまた日本でも似たような状況ではないでしょうか。暴力団と合わせて統一協会の動き(策動)もありますし...。
シチリア島のマフィアは、3200人から6800人と推定されている。人数に2倍もの開きのあるのに驚きますが...。
シチリア島のパレルモ県には1540人のマフィアがいて、15の縄張りに82の組織がある。といっても、組織は3人から10人ほどで、最大でも30人という。シチリア島の人口は480万人なので、5000人のマフィアがいたとしても、1000人に1人でしかない。なのに、シチリア島といったらすぐにマフィアを連想してしまうのは、島民にとっては心外なこと。
この本は、マフィアから取り上げた土地をオーガニックの畑に変え、ワインやオリーブオイルを作るという意欲的な試みを紹介しています。
マフィアはシチリア島でも、キリスト教民主党とともに成長した。シチリア島では、戦後、共産党と社会党が共闘した人民ブロックが90議席のうち29議席を獲得し、農民運動も盛り上がったので、島はほとんど共産化した。これにブレーキをかけたのが、1947年5月1日のメーデー集会を山賊が襲って、11人が亡くなった事件だった。
マフィアはただの殺人集団ではない。表面的には平和な時期にこそ、マフィアは活動している。マフィアは、暴力を行使することで、経済活動を行う組織だ。恐喝、みかじめ料、誘拐の身代金、公共事業の不正入札、違法薬物の密輸、選挙活動への介入など、その活動は多方面に及ぶ。そして、巨万の富を手に入れると、それを資金洗浄することで、金融業界に介入する。純然たる経済組織でもある。
マフィアが人を殺すのは、組織の掟を裏切った者や組織の利益を阻止する者への罰であり、暴力は、その経済活動を動かす燃料だ。
現在のシチリアでは、あからさまな暴力は、すっかり影を潜(ひそ)めた。しかし、マフィアによる闇(ヤミ)の経済規模は1380億ユーロ。国家予算の7%に相当する。その収益の中でみかじめ料が占める割合は16%(2011)。個人商店は月に2万8千円から7万円(200~500ユーロ)、スーパーは月70万円(5千ユーロ)、建設業界で140万円(1万ユーロ)。
そんなマフィアから押収した土地でワインやオーガニックのオリーブオイルをつくって販売しているというのです。
さらに驚いたことに、マフィア大裁判の裁判官の1人であるサグートという女性判事が、なんと、反マフィア法を悪用したとして詐欺の疑いで捕まり裁判中だというのです。いやはや...。そして、この摘発には、盗聴大国イタリアがあるのです。警察の盗聴によって、個人のプライバシーまで、すっかり暴かれてしまうようです。これも、日本も同じ状況なのでしょうか。
シチリア島の現実の一断面を知った思いがする本でした。

(2022年12月刊。820円+税)

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