弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年4月15日

アマゾンに鉄道を作る

アメリカ


(霧山昴)
著者 風樹 茂 、 出版 五月書房新社

 アマゾンに鉄道をつくる話だというので、ブラジルの話かと思うと、そうではなく、アマゾンの源流のあるボリビアでの鉄道づくりの話でした。
 1986年5月のことです。著者はまだ20代で、体重も50キロありませんでした。
 目的地のチョチスは、熱帯雨林とサバンナの境界にある、人口1000人もない小さな村。1979年1月の豪雨災害によって鉄道が打撃を受け、復旧したものの、本格的な復旧工事が必要だというので、国際入札があって大成建設と日建ボリビアが落札した。総額55億円の予算で、日本がJICAとODAを使った事業をすすめることになって、著者も現地に派遣されたのです。
 ボリビアは一つの国でありながら、実は二つの国。低地と高地で、気候風土、人種、文化、風俗がまったく違う。
 このアマゾンでは、初対面の男女は、口に軽くキスをするのが習慣。ここでは、10代半ばから、男と女は無数の短い恋愛を繰り返す。10代でも夫の違う子どもを2人か3人かかえている娘は何人もいる。アマゾンでは、男女は知りあうには易く、添い遂げるのは難しい。
 このチョチスは陸の孤島で、母系の強い社会。男性は単なるセックスの相手、子種のための存在、だから、遺伝子は遠いほどいい。そして、子どもは成長するのが速い。
 また、子どもは1歳から2歳で死ぬことが多い。兄弟7人いても半分以上は死ぬ。運がよく、強い者だけが生き残る。死はいつでも身近だ。そして、退屈な小村にあって、死は祝祭でもある。
 アマゾンには日系移民がいるから、日本の食材がつくられ、日本食が食べられる。
労働者の主食はイモのほかは牛肉。しかし、やけに固い。むしろ豚肉や鶏肉のほうが高い。牛の頭は、ここではごちそう。
 ボリビアは夜でも街を歩けて安全だった。総じて、ボリビア人は人がよい。
 2008年、22年ぶりにチョチスを再訪。2012年のチョチスの人口は635人。鉄道は立派に残っていた。しかし、貨幣に頼るようになった村人たちは、かえって貧しくなった。
22年前に知っていた人のうち3人が死亡、1人が刑務所にいて、行方不明が3人。男に逃げられた女性は数知れない。
 著者は最後に、アマゾンからの告発をのせています。やたらな開発なんてまっぴら。貧困は環境を破壊しない。環境を破壊するのはあくなき富の追求と、その結果としての環境破壊がもたらす貧困だ。
 まったく、そのとおりですね。アマゾンの鉄道をつくった経験と現在への思いにあふれた本です。大変面白く読みました。
(2023年2月刊。2200円+税)

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