弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年4月 8日

君のクイズ

社会


(霧山昴)
著者 小川 哲 、 出版 朝日新聞出版

 私はテレビを見ませんし、ましてやクイズ番組なんて関心もありません。でも、その裏側がどうなっているのかは関心があるので、つい手にとって読んでみました。
 著者は、先日『地図と拳』で直木賞を受賞しています。そっちは戦前の満州が舞台で、歴史をよく調べてストーリー構想もすごいと驚嘆しました。こちらは、歴史ではなく、クイズ番組の仕組みと、その優勝者たちの心理がよく調べて、本物そっくりに描かれています。あとがきに友人のクイズプレイヤー2人に助言してもらったと書かれています。
この本では、ぶっつけ本番のクイズ番組で優勝するのは、なんと問題文が読み上げられる前に「正解」を回答したという大学生です。どうやら、問題文を読み上げる人の口元を見て、そこから連想ゲームのようにして問題文を推測し、正解を回答したというのです。ありえない・・・と思いました。もちろん、「ヤラセ」じゃないかと疑いますよね。でも、最近のクイズ番組では、ヤラセがあったという話は聞かないというのです。
クイズとは、覚えた知識の量を競うものではなく、クイズに正解する能力を競うもの。クイズには、さまざまな形式がある、早押しクイズ、ペーパークイズ、ボードクイズ・・・。
 Q.日本で最も高い山は富士山。では大阪市港区にある、日本で最も低い山は?
 A.正解は「日和山」
 リスクを負うことも必要だ。展開によっては、まだ五分五分でも、他より先に押さなければいけない。『恥ずかしい』という感情は、クイズに勝つためには余計だ。そんな感情は捨てたほうがいい。クイズの強さとは、相手に先んじて正答を積み上げる強さだ。
早押しクイズでは、答えが分かってから押していると、相手に解答権をとられてしまう。「わかりそう」と思ったら打つ。ランプが点(つ)いて、答えを口にするまでの短い時間で、「分かりそう」だった解答を考える。いやはや、とんだ厚かましさだ。
数列に例えるなら、「クイズの強さ」とは、さまざまな数列の可能性を見つけられる知識と、リスクを計算しながらベストのタイミングで解答ボタンを押す技量と、計算の速さと正確さ、これらの総合値だ。
世界は知っていることと、知らないことの二つで構成されている。クイズに正解したからと言って、答えに関する事象をすべて知っているわけではない。まったく、そのとおりです。
(2023年3月刊。1400円+税)

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