弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年4月 5日

ディープフェイクの衝撃

社会


(霧山昴)
著者 笹原 和俊 、 出版 PHP新書

 先日、国際ロマンス詐欺の被害者がインターネットの映像によってすっかり本物だと欺されたと語る記事を読んだばかりでしたので、この本を手にとって読んでみました。
そういえばウクライナの「ゼレンスキー大統領」が自国民に向かって降伏を呼びかけたフェイク映像、そして、同じくオバマ元大統領もフェイク映像の被害にあったというニュースを思い出しました。
この本(新書)は、そんな映像が今や「簡単に」つくれることを紹介しています。本当に恐ろしい時代になりました。
ディープフェイクとは、人工知能(AI)の技術を用いて合成された、本物と見分けがつかないほどリアルな人物などの画像、音声、映像やそれらをつくる技術のこと。ディープフェイクはポルノから始まった。ポルノ女優の顔を有名人の顔にすり替えて作った合作ビデオが大量につくられ、流通している。
オバマ元大統領が「トランプは完全なバカ野郎だ」と耳を疑うような暴言を吐いている動画があり、900万回も視聴された(2018年4月)。
ディープフェイクは、誰でもパソコンのブラウザやスマートフォンのアプリで製作できるようになる日は近い。
2019年7月、ディープフェイクの動画1万5000本の96%はポルノだった。2020年にはディープポルノ動画は2万7000本で、うち7割はディープフェイクに特化したポルノサイトに投稿されていた。
ディープポルノ制作者が集まる地下コミュニティがあり、10万人以上のメンバーが偽ポルノ制作の腕を競っている。
今では、ディープフェイク動画は、本人と見間違ってしまうほど精巧。なので、被害はより深刻。女性の写っている写真から衣服を取り除いて合成ヌードを作成するアプリも存在する。日本でも、ディープポルノで逮捕された人がすでにいる。2020年10月、ポルノ動画の人物の顔を女性タレントの顔にすり替えて偽ポルノをインターネットで公開した男2人を名誉棄損と著作権法違反の疑いで逮捕した。この2人は、ディープポルノを400本アップし、80万円以上の収益をあげていた。
ディープボイスも作られているし、顔認証をハッキングした事件も発生している。
中国では、顔認証が突破され、お金が盗みとられる被害が多発している。「顔交換」は1動画あたり15ドル、5時間で制作できる。いやぁ、これって安すぎですよね(もちろん、高ければいいというのではありません...)。
現在のディープフェイク技術は、本物の人間かどうかを検知する人間の無意識すら欺してしまうようなものに進化を遂げつつある。ディープフェイクを見破るコツの一つは、まばたき。AIモデルは、まばたきを知らないので、まばたきを再現できない。また、人物の動きが異常に少なく、同じ動きばかりしているのは、怪しい。まばたきが不自然で、生身の人間だったらありえないほど変化がない。まばたきや瞳は嘘をつかない。今、このようなディープフェイクを検出する技術の開発がすすめられている。
いやはや、本当に怖い、恐ろしい世の中になりました...。
(2023年3月刊。1100円+税)

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