弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年3月24日

スマホを捨てたい子どもたち

人間


(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版 ポプラ新書

 ゴリラ研究の第一人者である著者が人間の子どもについて深く考察している本(新書)です。
 初めのところで私と共通するところがあり、驚き、かつ、うれしくなりました。つい、そうだ、そうだと叫んでしまいました。
 ガラパゴスと言われる古いケータイをいつもカバンの中に入れて持ち歩き、かかってきても音が聞こえない。自分勝手で申し訳ないけれど、ケータイをオープンにしたら、とても自分の時間をもてない。現代の情報化社会で、それが自分を守る方法。
 私の場合には、オープンにしたところで、それほど電話がかかってくるとは思いませんが、ともかく縛られたようになる気分が嫌なのです。スマホなんて、持ち歩きたくありません。
 スマホを使えば友だちと交信できるし、世界とも仲間ともつながっている感覚がもてる。でも、本当の意味で、人々は世界とつながっているのだろうか...。
 著者と同じ疑問を私も抱いています。
 世の中で何か事件が起きると、したり顔で素早く論評する人の何と多いことでしょう。でも、論評の対象となった事件の本質はまだ十分に知らされていないことが多いと思います。そんな段階の論評って、いったいどれだけの価値があるのか、私には疑問です。そして、避難・攻撃に走って快感を得ようとする人があまりに多いように思えます。ちょっと異常な社会になっていませんか...。
 人間と動物の出会い、人間同士の関係は、次に何が起きるか100%予測することができないからこそ、面白い。この面白さが生きる意味につながる。今、多くの人間が見失っているのは生きる意味ではないか...。
 人間は情報化することで、逆にバカになった。情報化するというということは、分からないことを無視するということ。だから...。
 人間がほかの動物と異なるのは文化をもっていること。
フィールドワークするときの4つの心得。その1、動物になりきる。人間であることを忘れる。その2、動物の感覚で自然をとらえる。その3、動物と会話して気持ちを通じ合わせる。その4、そこに降ってわいてくる新しい発見をつかむ。
 なるほどなるほど、でも、実際に実践するとなると、大変難しい心得ですよね。
 ゴリラと出会うと、「ウホウ」と呼びかけられる。それに対して、「グックフーム」と返す。これで、「ぼくだよ」と答えたことになり、ゴリラは安心する。「ダメ」と言いたいときは、「コホッコホッ」と咳のような音声を出す。変な返事をすると、ゴリラは「オッオッ」という声を出して怒る。
ゴリラは、何の挨拶もなしに2メートル以内に近づいたら、身体が「えっ、何かおかしいぞ」と反応する。
ゴリラは年齢(とし)の序列で優劣をつけない。
シルバーバック(ゴリラのオスの大人)は自分から子どもを育てにはいかず、子どもが来るのを待っている。白い背中はメスのためでなく、子どものため。白いと暗いジャングルでも目立ち、子どもたちは、白い背蟹を目印にしてついて歩いていける。休憩するときには、白い背中に惹きつけられるように寄っていって、この背中を枕にして寝る。シルバーバックの背中は子どもたちの憧れの場所。シルバーバックの白銀の毛は、背中からお尻、後ろ足のほうへと、年齢(とし)をとるごとに増えていく。こうして、ゴリラのオスは、年齢をとっても群れから追い出されることなく、子どもたちのアイドルであり続ける。
ゴリラは、近くで同じものを食べていて楽しい気分になると、ハミングして同調しあう。
ゴリラが何かしようとするときは目を見ればわかる。何かイタズラしようというときは、目がキラキラ光っている。これって、人間の子どもも同じですよね...。
人間の赤ちゃんは、体の成長を犠牲にして脳を発達させている。
家族をもっているのは人間だけ。ゴリラは単独の家族のようなものはもっていても、それが複数で集まることはない。チンパンジーは、複数のオスやメスが集まる地域共同体のようなものはあるが、家族はもたない。
人間の社会性は、食物を運び、仲間と一緒に安全な場所で食べる「共食」から始まった。ニホンザルは、基本的に食物を分配しない。チンパンジーやゴリラは食物を分配する。
食物の分配は、知性の高さではなく、子育ての負担の大きい社会で起こる現象。
学ぶのはどんな動物もしているが、教えるのが出来るのは人間だけ。 
人間は日本の足で立つことによって上半身と下半身が別々に動くようになり、支点が上がり、身体でいろいろな表現ができるようになった。言葉的な身体を手に入れた。
人間は、成長過程において、生物学的に弱い時期が2回ある。第一は乳離れの時期。もう一つは、思春期スパートと呼ばれる10代半ばから後半にかけて。
さすがに考えさせられる指摘が山ほどありました。
スマホに頼り過ぎてはいけないと、著者は最後に強調しています。まったくそのとおり、と、スマホをもたない私も声を大にして叫びます。そして、本を読むことをすすめています。これまた、同感です。いい本でした。
(2022年10月刊。税込946円)

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