弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年3月12日

ヒッタイトに魅せられて

トルコ


(霧山昴)
著者 大村 幸弘 ・ 篠原 千絵 、 出版 山川出版社

 残念なことにトルコには行ったことがありません。先日の大地震による被害は壮絶でした。明らかに人為的な手抜き工事の結果としか思えない高層ビルの崩壊は痛ましすぎて、声も出ません。
この本は、トルコの遺跡を発掘している日本人学者にマンガ家が質問して展開していく本です。これまた残念なことに、このマンガ家によるマンガ(「天河」)も読んでいません。「天は赤い河のほとり」(小学館)は、まさしくこの遺跡あたりを舞台としている(ようです)。
 トルコでは昔も今も女性の力は強い。まあ、これは日本でも同じですよね...。
 マンガでは、ヒッタイト帝国の最盛期、紀元前14世紀ころを舞台として、ラムヤスⅠ世などが登場する。少女マンガなので、史実を忠実になぞっているわけではない。それにしても、たいした想像力ですよね。
 ヒッタイトが当時、最強の武器だったはずの鉄と軽戦車をもっていたのなら、簡単に滅ぼされるはずはない。ああ、それなのに...。この疑問からスタートした。それにしても、遺跡の発掘には、信頼できる仲間が必要。
 ドイツ人にとって、アナトリアのヒッタイト帝国には、民族的、語学的に自分のもの。なのに、なんで日本人ごときが、ここで発掘なんかするのか...。なので、ドイツ調査隊からは、完全に無視された。いやあ、こういうこともあるんですね...。
 発掘調査は、継続できて、初めて考古学という学問が成り立つ。なので、発掘場所が政治的に安定しているかどうかは、とても大きな問題となる。
 大事なことは、黙って、地味にやる。発掘調査には、年間に数千万円単位のお金がかかるのですよね。いったい、どうやってこれをまかなったのでしょうね...。
 発掘して出てきた遺物をきちんと整理、保存する。そして、次世代の若手研究者を育てる工夫もする。小学生を招いてレクチャーし、質問の時間もとっておく。大切なとですね。
 発掘調査は6月中旬から9月下旬までの3ヶ月ほど。発掘より整理のほうが時間を要する。
 発掘調査をする人は、現地の労働者とうまくやっていけることが、ものすごく大切。
 そして、毎週、子どもたちの前で授業をする。そして、研究室にも子どもたちが自由に出入りできるようにしている。盛大な拍手を送ります。
 発掘調査のなかで、毎年、数十万点ほどの遺物が出てくる。その収蔵庫が5棟ある。すべて開放して、誰でも自由に使えるようにしている。これはすごいですね。といっても、日本からだとあまりに遠い、遠すぎるのです...。
 ヒッタイトのヒエログリフ、そして楔形文字を読めるというのは、容易なことではない。残念なことに、ヒッタイトが使っていたという軽戦車は、まだ1台も発見されていない。ツタンカーメンの軽戦車は、ほとんどが木製で、儀礼用のヒッタイトのそれは、3人乗りで、エジプトのは2人乗り。見てみたいですよね、ぜひ。
エジプトとヒッタイトとは、まったく異なる世界。エジプトのファラオ(王)は、生きているときから、神として崇(あが)められる。絶対的な権力者。これに対して、ヒッタイトの王は、生前中は、神ではなく、限りなく人間。ヒッタイトの王は、あくまでも人間で、死んでから神様になる。
ヒッタイトの副葬品は、エジプトの金銀財宝のようなものは一切ない。本当に地味。
ヒッタイトでは、死者はおおむね火葬にされる。
ヒッタイトは分権的で、とても合理的。
ヒッタイトでは「鋼」がつくられていた。
ゾロアスター教は、日本にも影響を与えていた。
ヒッタイトの謎に迫りたくなってくる本です。読むと世界が広がります。
(2022年11月刊。税込1980円)

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