弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年2月19日

読切り・三国志

中国


(霧山昴)
著者 井波 律子 、 出版 潮文庫

 「三国志」と「三国演義」と二つあるうちの史実を中心とする「三国志」をベースとしながら、小説の「三国演義」にも目を向けて話を補足した本です。
 「三国志」の世界は、後漢王朝(25~220年)が乱れたところに始まる。
 後漢王朝は皇后の一族である外威と、後宮(ハーレム)を支配し、皇帝に近侍する宦官(かんがん)との争いに明け暮れた。そして、黄巾(こうきん)の乱れが起こり、董卓の乱となり、そのあと、群雄割拠の時代となった。
 「三国演義」は小説として、蜀を正統視し、劉備を正義派・善玉に、曹操を敵(かたき)役、悪玉に仕立てあげた。私にも、それは、すっかり刷り込まれています。
 ところが、この本では曹操について、権謀術数に長(た)けていたが、決して邪悪の権化というような単なる悪玉ではない、超一流の軍事家であり、政治家であり、おまけにすぐれた詩人だったとしています。そして、劉備や孫権とは段ちがいの傑物だと高く評価しています。これでは、考え直さないといけませんね...。
 曹操の周囲には、強力な頭脳集団、ブレーンが存在し、曹操のほうも彼らの意見に真剣に耳を傾けた。
 劉備は曹操より7歳下。劉備は勉強嫌いで、派手な服装を身につけ、堂々たる風格の持ち主だった。
 曹操が大胆かつ豪快な性格、切れ味鋭い頭脳の冴えとうらはらに風采のあがらない貧相な小男だったのに対して、劉備は身長180センチ、目立つ偉丈夫だった。ひと目見るなり、人を惹きつける魅力があった。
 劉備は、謙虚な人柄で、人によくへりくだり、口数は少なく、喜怒哀楽を表に出すことがなかった。天下の豪傑を好んで交わり、大勢の若者が競って劉備に近づいた。周囲の人物を奮起させ、輝かせる不思議な力が劉備にはあった。関羽や張飛という荒くれ武者が劉備のために死力を尽くしたのは、劉備の人柄の魅力だろう。
 元はワラジ売りだった劉備がのしあがっていく過程においては、右往左往し、戦いに明け暮れる日々があった。
 関羽は忠義一徹、一度たりとも信義に違うことはなかた。関羽も張飛も、いつどんな状況になっても、主君である劉備との間に、決して裏切ったり、裏切られたりすることのない、絶対的な信頼関係が成り立っていた。
 そうなんです。ここに「三国志」の大きな人気の秘密があると私は思います。
 私は小学生のころは、図書室で世界の偉人の伝記に読みふけりました。中学生のころは山岡荘八の『徳川家康』に没頭しました。そのころ、同じく『水滸伝』と『三国演義』の世界にはまったように思います。読書に楽しさ、深さをじっくり堪能し、以来、今日に至ります。
 昨年1年間で読んだ単行本は440冊です。コロナ禍前の年間500冊には達しませんでしたが、これは、ZOOMのせいです。こちらは出張したくても、来るな、行くなというプレッシャーがかかって身動きとれませんでした。移動の車中・機中を主とする読書タイムを確保できなかったのです。今ようやく少しずつ本調子に戻りつつあるところです。
 関羽は、単純明快、何の駆け引きもなく、うらやむべき健康な精神をもっている。同世代の人間が関羽にやっかんだのも、ある意味では当然のこと。ところが関羽は、商人の信仰の対象になった。不思議なことです。ないものに憧れるということなのでしょうか...。久しぶりに中国の古典の世界に没入して、楽しむことができました。ありがとうございました。
(2022年8月刊。税込1210円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー