弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年2月 7日

聞く技術、聞いてもらう技術

人間


(霧山昴)
著者 東畑 開人 、 出版 ちくま新書

 いま売れている話題の本だけあって、とても実践的な本です。すぐにでも生かせる「技術」が盛りだくさん紹介されています。
 話を聞くには眉毛が大事、つまり話を聞くためには、反応がオーバーであったほうがいい。
 聞くために必要なのは、沈黙。黙って、間(ま)をつくる。そして、返事は遅く、5秒間待つ。7つの相槌をうつと、話が聞かれている感じを与える。うーん、ふーん、なるほど、そっか、まじか、だね、たしかに。
 ぼくらの社会に今もっとも欠けているのは、「聞く」こと。
 うまくいっているときには存在を忘れられ、うまくいかなかったときだけ存在が思い出される。それが、「環境としての母親」。
 心の中で一人ポツンといるためには、外の現実で手厚く守られている必要がある。それは、電車の中で本を読んでいるみたいな感じ。本当は周囲に人がいるけれど、それでも一人でいられる。孤独の前提は、安定した現実。
 安心というのは、予想外のことが起きないという感覚のこと。日々の生活で予想と同じことが起きる。変なことをしても誰もこない。
 いじめが深刻に心にダメージを与えるのは、この反対。今日、学校に行って、何が起きるか予想もつかない。これはとても恐ろしいこと。この指摘は私にもぴったり、よく分かります。
 信頼とは、時間の経過によってしか形づくられないもの。
 誰にでも、複数の心がある。ぼくらの中には相矛盾した気持ちが両方あって、それらが押したり引いたりしながら、日々の暮らしが営まれている。だから、その人の心を見ることは、同じ人の中で複数の心が綱引きをしているところを見ること。
 完全に理解したわけではありませんが、なんとなく、よく分かる指摘です。
 年齢(とし)をとると、良いこともある。何より、少しだけ他者のことを理解しやすくなること。
 カウンセラーの仕事は、通訳。誰かが話を聞いてくれて、「そりゃあ、ひどい」とか、「よく耐えられるね」という返しがあると、ほっとする。
(2022年12月刊。税込946円)

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