弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年1月13日

付き添うひと

司法・社会


(霧山昴)
著者 岩井 圭也 、 出版 ポプラ社

 弁護士が少年の非行事件の弁護人として行動するときは、付添人(つきそいにん)と呼ばれます。そして、この少年には少女も含んでいます。
 少年非行事件は激減しました。年間50万件あったのが、今ではその1割の5万件ほどしかありません。ところが問題行動を起こす少年が減ったことを手放しでは喜べない、そんな気がしてなりません。いじめなど、非行が陰温化しているのではないか、子どもたちの伸びのびした創意工夫の芽が型にはめられて失われているのではないか、不登校やひき込もりが増えているのではないか...。子どもたちを取り巻く問題状況は、かえって深刻になっているようにも思えます。
 そして、何より、社会に起きていることや政治に関心がなく、無気力になっているのではないでしょうか。若者の投票率の低下は、そのあらわれの一つだと思います。
 親との葛藤のなかで生まれる少年事件では、付添人は親との対話にも大変苦労することがしばしばです。この本では、最後の参考文献に福岡弁護士会子どもの権利委員会による『少年事件付添人マニュアル』(日本評論社)もあげられていて、わがことのように鼻が高いです。
 子どもに関心を持たない親、子育てをあきらめてしまった親がいる。親の無関心は肌でわかる。手を差しのべられていないと感じる子どもが立ち直るのは容易ではない。手を差しのべる人は、親でなくてもいいのです。付添人は、そんな人とつながりをもって、少年の立ち直りを支えるのです。この本は、子どもが親からの虐待に逃げ込む場(シェルター)があることを紹介しています。虐待親の多くは子どもを自分のものと考え、必死に子どもを取り戻そうとします。なので、シェルターの所在は絶対秘密です。
 ところで、主人公のオボロ弁護士もまた親との関係で苦労させられた一人という経歴です。高認(高卒認定試験)を経て、働きながら夜間の大学の法学部で学ぶようになり、29歳のとき、3度目の司法試験に合格した。だから、対象となった子どもたちの気持ちがよく分かる。
 これほど劇的な体験を経て弁護士になったという人は私の身辺にはいませんが、少年付添人を熱心にやっていた(いる)人は何人も知っています。その日夜を分かたぬ熱心な活動に、いつも頭の下がる思いでした。
 少年事件の実際と付添人の弁護士の活動の実情を知ることのできる貴重な小説です。ご一読ください。
(2022年9月刊。税込1870円)

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