弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年12月15日

絵巻で読む方丈記

日本史(鎌倉)


(霧山昴)
著者 鴨 長明 、 出版 東京美術

 「方丈記」に絵巻物があったとは...。いえ、「方丈記」それ自体は鎌倉時代初期に書かれたもの。これに対して、絵巻のほうは江戸時代に製作されたものなんです。ところが、文章と絵が驚くほどよくマッチしています。まあ、ぜひ手にとって眺めてみてください。
 そして、この本の良いところは、現代語訳がついているので、古文を難しく感じても、現代語訳で立派に理解できます。
 水木しげるも方丈記をマンガにしているそうです。知りませんでした。
 「方丈記」の本文は、400字詰め原稿用紙にすると、わずか25枚だそうです。そんなに短いのに、高校生のころは、大学受験のためもあって、必死に勉強していました。といっても、冒頭の「行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまることなし。世の中にある人と栖(すみか)と、また、かくの如し」以上に、どこまで深く読み込んでいたのか、心もとないところがあります。
 この本で紹介されている「方丈記絵巻」は、絵画17図の全身14メートルにも及ぶ絵巻とのこと。東京の芝公園にある図書館に原図は所蔵されているそうです。
 鴨長明は、欲しがったり、期待したりすることをやめて、心が楽になり、結果として、地位や名声よりも大きな喜びを獲得した。これは、現代の私たちが心穏やかに生きるための範となるだろう。なーるほど、そうですよね。
 「知らず、生まれ死ぬる人、何方(いづかた)より来たりて、何方へか去る。また知らず、仮の宿り、誰(た)がために心を悩まし、何によりてか目をよろこばしむる。その主(あるじ)と栖(すみか)と、無常を争ひ去るさま、いはば朝顔の露にことならず。或は露落ちて、花残れり。残るといへども、朝日に枯れぬ。或は花はしぼみて、露なほ消えずといへども、夕べを待つことなし」
 飢饉(ききん)の状況を書きとめた文章も心を打ちます。
 「また、あはれなること侍(はべ)りき。去りがたき女(め)、男など持ちたる者は、そのこころざしまさりて深きは必ず死す。その故(ゆえ)は、我が身をば次になして、男にもあれ女にもあれ、いたはしく思ふかたに、たまたま乞ひ得たる物を先(ま)づ譲るによりてなり。されば、父子ある者は、定まれることにて、親ぞ先立ちて死にける」
 60歳を過ぎた心境は...。
 「心また身の苦しみを知れらば、苦しむ時は休めつ、まめなるときは使ふとても、たびたび過ぐさず。もの憂(う)しとても、心を動かすことなし、いかにいはんや、常に歩き、常に動くは、これ養生なるべし。何ぞ、いたづらに休み居(お)らむ。人を苦しめ、人を苦しめ、人を悩ますは、また罪業(ざいごふ)なり」
 そうなんです。70歳を過ぎてもなお仕事があり、私を求めてくれる人がいて、自分の足でしっかり歩けるということのありがたさを日々実感しています。
 たまに古文を読んで、偉大な先人の言葉に接すると、心が洗われる思いがします。もう、受験生ではありませんので、邪気がありませんからね...。
(2022年7月刊。税込2530円)

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