弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年12月11日

満州分村移民と部落差別

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 エイミー・ツジモト 、 出版 えにし書房

 熊本県山鹿市来民(くたみ)町から満州に移民した「開拓団」が日本敗戦後、関東軍から見捨てられ、現地農民から成る「暴徒」3千人に取り囲まれるなか、276人全員(1人だけ命じられて脱出)が自決に追い込まれた。その半数以上は子どもたちだった。
 「満州は日本の生命線」とかの大々的な宣伝、そして満州農業移民100万戸移住計画という国策に乗せられ、多くの日本人が幻想をもって満州へ渡った。ところが、満州の農地とは関東軍の武力を背景として、安く買いたたいて、現地農民を追い出したあとに入植したものだった。
 だから、現地の匪賊(ひぞく)と戦うべく鉄砲を持たされる。いわば屯田兵。これが政府の当初からの狙いだった。ソ連との国境地帯の多数の開拓団が配置された。しかし、現地の開拓団の農民は、そのような自覚に乏しく、関東軍が自分たちを守ってくれると考えていた。
 来民開拓団は、新京(長春)より北、ハルビンより南に位置し、すぐ近くには長野県から移民してきた黒川開拓団があった。黒川開拓団のほうは、日本敗戦後、進駐してきたソ連軍に守られ(その代償は独身女性による性接待)、その大多数が日本内地に帰還した。
 日本敗戦の直前に開拓団の青年男子が召集され、開拓団の大半は老人と女性そして子どもたちだけとなっていた。そこへ、日頃の恨みから現地農民が押し寄せてきたということ。このとき、現地警察が来民開拓団から武器を取り上げるのに一役買っていて、しかも襲撃勢の先頭に立っていた。
 満州の開拓団の典型的な悲劇が掘り起こされている貴重な労作です。
(2022年8月刊。税込2200円)

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