弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年11月 4日

労働弁護士50年、高木輝雄のしごと

司法


(霧山昴)
著者 名古屋共同法律事務所 、 出版 かもがわ出版

 名古屋に生まれ、名古屋で育ち、弁護士としても一貫して名古屋で活動してきた高木輝雄弁護士が後輩の弁護士からインタビューされて労働弁護士としての50年を語っていて、とても興味深い内容になっています。150頁ほどの小冊子ですが、内容は、ずっしりという重みを感じさせます。
 著者は戦前(1942年)に名古屋熱田地区に生まれ、名古屋大学法学部では行政法の室井力教授、憲法の長谷川正安教授、民法の森嶌昭夫教授に教えられました。
 司法修習は20期で、青法協の活動に熱心に参加した。横路孝弘とか江田五月も同期。
 弁護士になったころは、公害事件と労働事件、そして大須事件のような刑事弾圧事件で忙しかった。
 私が著者を知ったのは著者が四日市公害訴訟の弁護団員として活躍していたからです。
 四日市公害訴訟は1967(昭和42)年の控訴なので、著者はまだ司法修習生のころ。翌年に弁護士になってすぐ弁護団に加えてもらった。四日市公害訴訟の判決は、コンビナート企業会社の共同不法行為を認めた。この判決の意義を私は司法修習生のとき、青法協活動の一つとして当時、横浜地裁にいた江田五月裁判官にレクチャーしてもらいました。
 そして、著者は名古屋新幹線公害訴訟裁判に取り組んだのでした。新幹線の騒音・振動という公害問題です。著者は弁護団の事務局長でした。この裁判では、一審で、裁判官は3回も屋内で検証したというのです。すごいですね、今では、とても考えられませんよね...。また、沿線の旅館に弁護団で合宿したとき、その振動のあまりのひどさに、内河恵一弁護士が枕を持って逃げ出したとのこと...。実感したのですね。
 受忍限度論が問題になっていました。住宅密集地だけ減速したらいいじゃないか、名古屋7キロ区間のスピードを半分に落としても、せいぜい3分遅れるだけではないかと原告側が主張すると、他の地域でもやらなければいけなくなるという国鉄側は情報的な反論をしたのです。
 そして、実際、国労は裁判所が検証しているとき、減速運転してくれた。懲戒処分を覚悟したうえでの減速だった。すごいですね、今なら考えられませんよね、残念ながら。
 弁護団事務局長として、あまりの激務のために、他の仕事はほとんど出来なかった。
 いやあ、これは大変でしたね...。著者は午前2時まで作業して、2時間ほど寝るだけで、寸暇を惜しんで裁判の維持に全力をあげた。
 そして、著者は名古屋南部大気汚染公害訴訟にも取り組んだのでした。
 著者はながく弁護士として裁判に関わるなかで、司法の限界をいろんな場面で感じた。
 また、著者は労働事件にも取り組んでいます。裁判所や労働委員会は、運動全体のなかでは一つの手段にすぎない。重要ではあるけれど、それで終わりだと、本当の解決につながらないことも多い。裁判も一つの手段だから、ちゃんとした位置づけが必要だ。
 裁判や労働委員会といった法律的な場面だけではなく、社会的な問題に積極的に関与するのが労働弁護士の日常活動だった。ビラも配ったし、署名を集めたり、一緒にデモをしたり、ストライキのしたこともある。
 ところが、労働組合の姿勢がすっかり変わってしまった。連合が発足したあと、労働組合が大きく右傾化してしまって、労働組合が経営側と積極的にたたかうというのが例外的になってしまった...。残念ですね、ぜひ本来果たすべき役割に戻ってほしいと思います。
 労働組合は、もっと力をつけなければいけないし、もっと政治的、社会的な課題に目を向けるべき。労働者の組合加入率が低すぎるのも、本当に残念なことです。
 弁護士は事件の現場で鍛えられる。
 著者は、「ケンカ太郎」とか、「瞬間湯沸かし器」と言われながら、この50年を一貫して、まっすぐに歩んでこられたわけです。すごいことです。読んで勇気づけられる本でした。ご一読をおすすめします。
(2019年1月刊。税込1760円)

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