弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年11月 2日

玉城デニーの青春

社会


(霧山昴)
著者 藤井 誠二 、 出版 光文社

 「オール沖縄」候補が那覇市長選挙において大差で自公のアメリカ軍基地増設容認候補に敗北したのはショックでした。何より市長選の投票率が50%に達しないというのが残念です。
 なんだか、どっちもどっちだな。そんなら、わざわざ投票所に足を運ぶこともないんやな...。
 有権者の半分も投票所に行かないなんて、日本はそれだけで異常な国だと思います。よその国は、投票に行きたくても行けなかったり、監視つきでしか投票できなかったりしているのに、日本国民は、あまりに怠慢です。まさしく惰眠をむさぼっています。そのツケはすでに来ていて支払わされているのに、そのことに気がつかずに、毎日、オレ(ワタシ)は忙しいんだし(忙しいのよ)、なんてウソぶいているのです。本当に残念です。
 でも、私は絶望してはいません。やれば、たたかえば出来ることを、この本の主人公が示してくれているからです。玉城デニーが沖縄県知事選挙で当選したことは万鈞の重みがあります。このとき、自由と民主主義を求め愛好する人々の良心が勝ったのです。
 その沖縄県知事の青春を振り返った本です。ああ、そういう人だったのか、それで沖縄の厳しい選挙選を勝ち抜くことができたのか、よく分かりました。
 何よりも人柄がいい。強さと明るさには頭が上がらない。
 沖縄は日本の中で差別され、沖縄の中でハーフは差別され、そのねじれの間を生き抜いてきて、差別がトラウマになって脱しきれない人がたくさんいるなかで、デニーはそうではない。デニーという名前はいじめられる。
デニーの父親は沖縄に来ていたアメリカ海兵隊員。でも今、どこで何をしている人なのかは明らかにされていない。玉城デニーも、父親の素性には触れない。
 「十人十色で10本の指のかたちも長さも違うのだから、気にする必要なんかない。容姿は皮一枚なんだよ。皮を脱いだら、みんな赤い血が流れていて、同じなんだよ」
 これは玉城デニーに母親が言ったコトバ。すごいですね、まったくそのとおりですよね。
 玉城デニーは、高校生のときにロックバンドを結成し、素人グループながら、米軍基地内でも演奏していたそうです。デニーは、ボーカル。ロックバンドの名前は、「ウィザード」。魔法使いですかね...。
 デニーは強い。母ひとり、子ひとりで、ハーフとして差別もされて、それが強さになっている。東京で生活して、苦労して、沖縄に戻ってきた。そして、誘われて音楽をやるようになった。
 ハーフであり、見かけで差別されたこともあったのに、よくぞいい性格のままで大人になれたものだ。そういう扱いを受けたからこそ、反発として性格の良さが磨かれたのかもしれない。
 そうかもしれない、きっとそうだろう。私もそう思います。弁護士になって、いろんな人と出会い、苦労したことが必ずしも人格を円満にするとは限らないという人を嫌になるほど見てきました。トゲトゲしさばかり、他人(ひと)を見下してばかりの「苦労人」がいます。そして、まともなことを言って、少しでも政権にタテつくと、「アカ」というレッテルを貼りつけて切り捨てるのです。その心の狭さに私は何度も呆れてしまいました。
玉城デニーには、2人の母がいる。産みの親(玉城ヨシ)は「おふくろ」で、育ての母(知花カツ)は「おっかあ」と呼んだ。この二人は、とても仲が良かったので、産みの親が育ての母にデニーをまかせたのだった。子どもって、愛情たっぷりに育てたら、産みの親かどうかは関係ないんですよね...。
沖縄の現実の一つを知ることのできる貴重な本だと思いました。
(2022年8月刊。税込1760円)

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