弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年10月17日

タヌキって、何?

生き物・タヌキ


(霧山昴)
著者 佐伯 緑 、 出版 東京大学出版会

 タヌキ学の黒帯的研究者が、令和のポンポコ事情を明らかにする。大いなる「狸想(りそう)」を掲げ、「真狸(しんり)」を追求。
 オビの文句は、かくも勇ましいのです。著者が空手の極真会で有段者であり、子どもたちにも空手を教える身だからです。空手をするタヌキなどのイラストも著者が描いたものです。まことに多才の人です。
 食肉目イヌ科であるタヌキの骨格は、基本的にイヌと同じ。
 タヌキは器用貧乏。走りも泳ぎも登りも狩りも、みな、ある程度こなせる。でも、同じ食肉目内の走りはオオカミ、泳ぎはカワウソやイタチ、木登りはアライグマ・ハクビジン・テン、狩りはキツネ・オオカミ、穴掘りはアナグマにはかなわない。
 タヌキの得意技は、小さな隙間を通るのがうまいこと。
 タヌキは、「溜め糞(ためふん)」と呼ばれる共同トイレを使う。ゲージ内では一つの溜め糞を家族で使い、知らないタヌキの糞があると、その上にする。つまり、自分(家族)と他狸とを臭いで識別できる。
 タヌキは、好き嫌いは言わない、食べられるときに食べるチャンスは逃がさない、これをモットーとして、しっかり生きのびてきた。
 野生のタヌキは、一日一日が死と生の選択で過ぎていく。タヌキの寿命は、野生で6~8歳、飼育下だと20年近い。野生で生きるのは、それだけ厳しい。
 イヌ科は北アメリカで、誕生した。そして、ベーリング海峡を伝って、ユーラシア、さらにアフリカへ進出していった。
 日本のタヌキは、寒さ対策がゆるんで、食べものも肉食系雑食より、昆虫・果実食系雑食になった。
 タヌキは繁殖力が強い。1腹の子が8~10頭。最高記録は16頭。1歳のメスの3分の2が出産する。出産後は、哺乳類としては珍しく父親による高度な育児がある。
 そして、タヌキはオス、メスともに遠くに広がる(分散能力)がある。20キロ、40キロは珍しくなく、ドイツでは91キロ、スウェーデンでは650キロも移動したことが確認されている。
 戦前の日本ではタヌキの養殖が盛んだった。それは、兵士の防寒装備としてタヌキの毛皮が使われていたということ。アメリカに輸出もされていた。
 キツネとタヌキは、どちらも中型のイヌ科。
 タヌキは「ロードキル」で死ぬことが多い。道路に出たところを車にはねられて死ぬ。これは、タヌキが鈍いのではなくて、防御行動として「立ち止まり型」をとる結果。
 著者はアメリカやイギリスの大学で野生生物を研究したあと、日本に戻って、千葉でタヌキを追いかける研究者になりました。これは千葉に親戚が住んでいたことが大きいようです。それにしてもタヌキを飼ったり(病気やケガをしたタヌキを養生させるため)、まことに好きじゃなければ、やってられないと思いました...。
(2022年7月刊。税込3630円)

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