弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2022年10月 1日
したたかな植物たち
生物・
(霧山昴)
著者 多田 多恵子 、 出版 ちくま文庫
もの静かで、じっと動かない植物。しかし、本当は「戦う」存在だというのです。ええっ、そ、そうなの・・・。そんな驚きを見事に納得させてくれる、写真たっぷりの文庫本です。
植物たちは、したたかに、そしてけなげに生きている。
ヨーロッパ原産のセイヨウタンポポと日本原産のカントウタンポポの違い。セイヨウタンポポは、総苞(そうほう)片がそり返る。カントウタンポポは、総苞片がそり返らず、先端に角のような小突起がある。
セイヨウタンポポは、明治時代の初めに日本にやってきた。放牧している乳牛に食べさせるために北海道の牧場に導入したのが始まり。葉や茎を切ると、白い乳液が出ることから、西洋では牛に食べさせると乳の出が良くなると信じられていたという。
セイヨウタンポポが爆発的に増えたのは、昭和30~40年代の高度成長時代。
セイヨウタンポポは春だけでなく、夏から冬も開花結実し、多数のタネは、軽く、遠くまで飛ぶ。そして、無融合生殖で増えていく。つまり無性生殖。単独で子をつくってしまう。ドクダミ、ヒガンバナ、シャガそしてニホンスイセンも、みな無融合生殖。 花が咲いても実を結ばず球根や地下茎でクローンを増やしていく。
在来タンポポは、虫が別の株の花粉を運んできてくれないと結実できない。
パンジーやビオラは、スミレの仲間。ヨーロッパの野生種からつくられた。なるほど、パンジーとビオラって、ほとんど形の大小のほか違いがありませんよね。
スミレは、アリの好物である脂肪酸を「おまけ」としてアリを呼び集める。アリはせっせとタネを巣へと運ぶ。そうやって、スミレは広がっていく。
カタバミの実は、何かが見に触れると、その振動を感じて、ピュピュッと中からタネが飛び出してくる。そして、袋の中に充満していた透明な液体もタネとともに飛び出す。この液体はいわば「瞬間接着剤」で振動を与えた人の靴や足にタネを貼りつける。こうやって、人の稼動力を利用して生活圏を広げていく。
植物は常に窒素(ちっそ)分に飢えている。窒素分は不足しやすい資源だ。空気中には窒素ガスが大量にあるが、分子の結合が固いので植物は利用できない。唯一の例外が根粒菌。マメ科植物は根粒菌と「共生」することで「飢え」から解放された。
ネジバナの1個の実には、数万個のものタネ(種子)が入っている。タネは、長さ0.4ミリ、重さはわずか0.0009ミリグラム。
ミズバショウ(白い花)とザゼンソウ(茶色の花)は、どちらもサトイモ科の多年草。ドクダミとは遠縁にあたる。ミズバショウの花はよい香りで、ザゼンソウの花は悪臭。
いま、庭にフジバカマを5本植えています。アサギマダラという「テフテフ」(ちょうちょ)が来るのを待ち構えているのです。いえ、昆虫採集の趣味はありません。単純にフジバカマの花を植えると、アサギマダラがやって来ると聞いたので、フジバカマを4株だけ植えてみたのです。さてさて、うまくいくでしょうか・・・。もちろん、うまくいってほしいのです。
(2019年3月刊。税込1012円)
2022年10月 2日
鷗外追想
人間
(霧山昴)
著者 宗像 和重 、 出版 岩波文庫
明治の文豪・森鷗外が亡くなったあと、故人を偲んだ文章がまとまっている文庫本です。
鷗外という人の性格と生活の様子が分かります。
鷗外は、淡泊な野菜類、ナス、カボチャ、サツマイモを好んだ。
とりわけサツマイモが好物で、砂糖をつけて食べた。
晩年には、料理屋のものは一切食べなかった。
本をたくさん買ったが、値切ることはしなかった。著者の苦労を思えば、そんなことはできないと言った。
服装は1年中、軍服で通すことが多かった。
留学してからは風呂に入ることなく、朝夕2回、桶1杯の湯と水を入れたのと穴のあいたバケツを2個そろえて、頭の先から足の先まで拭い清めた。
タバコをすい、葉巻を愛用したが、晩年にじん肺になってからはやめた。
酒は飲まなかった。
日清戦争に従軍したあと、台湾へまわされ、そのあと東京ではなく、小倉師団に転任を命じられた。これは明らかに左遷であり、本人も「隠流」という雅号を名乗って、自分の心境を表明した。
鷗外は、相撲を好んだ。
鷗外も妻も、最初の結婚に失敗した同志だった。
医者でありながら、自らは医者にかかりたくなかったようです。60歳で亡くなったのも、そのせいではないでしょうか...。
(2022年5月刊。税込1100円)
2022年10月 3日
生命の大進化40億年史
生物
(霧山昴)
著者 土屋 健 、 出版 講談社ブルーバックス新書
地球の歴史は46億年。39億5000万年前に生命が誕生した。そして30億年以上かけて生命はゆっくりと進化していった。
5億7500万年前に、多様な生物群が出現。
5億3900万年前のカンブリア紀に、動物たちが本格的な生存競争を始める。その後、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ペルム紀という6つの「紀」があり、2億8700万年間を古生代と呼ぶ。古生代が始まったときには、海域だけだったのが、次第に陸域へ進出した。
カンブリア紀には爆発的な多様化が誕生した。まさしく奇妙奇天烈な格好の生物が無数にあらわれました。有名なアノマロカリスも、今ではたくさんありすぎて、さらに細かく分類されているようです。
そして、動物が眼をもったことが進化を加速させたというのが通説になっています。なるほど、見えるのと見えないのとでは、進化の様相が違ってくるでしょうね。
そして、ついにサカナが登場。すべての脊椎動物はサカナから始まった。初期のサカナたちには歯もアゴもなかった。海底にたまった有機物を吸い込むだけだった。
カンブリア紀から現在に至るまでに5つの大量絶滅事件があった。ビッグ・ファイブともいう。シルル紀の海で、サカナたちの進化は進んだが、まだ弱者だった。カンブリア紀以来、1億年以上にわたって海のみを生活と進化の舞台としていたサカナたちの中に、陸に上陸することができるものが現れた。
サカナから四足動物が誕生するにあたって、からだのつくりは、タテ型からヨコ型へと変わり、眼の位置も変わり、胸びれと尻ビれ以外のひれは消失し、胸ビレと尻ビれは骨と筋肉と関節をもつ足へと変化し、あわせて、肩や腰、首などをもつようになった。
石炭紀の大森林の主力はシダ植物。このころのシダ植物は、日陰ではなく、日向の主役だった。
150点をこえるカラー画像もあって、生物の進化を視覚的にたどることのできる楽しい新書でした。でも、目の前にある化石をこうやって、いつの時代のものと位置づけられるって、すごいことですよね。
(2022年6月刊。税込1760円)
2022年10月 4日
人は、なぜ戦争をするのか
社会
(霧山昴)
著者 アインシュタイン 、 フロイト 、 出版 講談社学術文庫
アインシュタインは言う。
人間の心自体に問題がある。人間の心のなかに、平和への努力に抗(あらが)う諸々(もろもろ)の力が働いている。
権力欲を後押しするグループがいる。金銭的な利益を追求し、その活動を推し進めるために、権力にすり寄るグループだ。戦争のときに武器を売って大きな利益を得ようとする人々がその典型。彼らは、戦争を自分たちに都合のよいチャンスとしか見ない。個人的な利益を増大させ、自分の力を増大させる絶好機としか見ない。
人間には、本能的な欲求が潜んでいる。増悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が。破壊への衝動は、いつもは心の奥深くに眠っていて、特別なことが起きたときだけ表に顔を出す。
なーるほど、アインシュタインは、人間の心奥底深くに憎悪の念、すべて破壊しようとする衝動が眠っているとしたのですね...。
さらに驚くべきは、次の指摘です。
自分(アインシュタイン)の経験に照らせば、「教養のない人」より「知識人」のほうが暗示にかかりやすい。「知識人」こそ、大衆操作による暗示にかかって、致命的な行動に走りやすい。
ええっ、そ、そうなんでしょうか...。私の常識とは真逆でした。
なぜか。「知識人」は現実を、生の現実を、自分の目と自分の耳でとらえないからだ。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練りあげられた現実を安直にとらえようとするから...。
実に手厳しい批判です。現実を直視することなく、プロバガンダに流されていく人が多いのは、安倍元首相の国葬の日に一般献花台に献花するため大行列をつくった人々の存在が、悲しいことに、それを証明していますよね(もっとも、統一協会の信者が全国から全力動員かけて集まったという説もありますよね)。
アルバート・アインシュタインの手紙を受けとった、ジグムント・フロイトは次のように返信を書きました。
法律は支配者たちによって作りだされ、支配者に都合のよいものになっていく。
法といっても、つきつめたら、むき出しの暴力にほかならない。「法による支配」を支えていこうとすれば、今日でも暴力が不可欠だ。
人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない。破壊兵器がこれほどの発達をみた以上、これからの戦争では、当時者のどちらかが完全に地球上から姿を消すことになる。場合によっては、双方ともこの世から消えてしまうかもしれない。
アインシュタイン53歳、フロイト76歳。ともにユダヤ人。アインシュタインはナチスに追われてアメリカに亡命。フロイトも同じくイギリスへ亡命。この2人が、国際連盟のすすめで意見交換したのです。
ロシアのウクライナへの侵略戦争が2月に始まって、もう7ヶ月たちましたが、終わる目途すら立っていません。そして、この戦争も喰い物にしている軍需産業がアメリカにもヨーロッパにもいるという腹立たしい現実があります。わずか100頁ほどの小さな文庫本を手にして、一日も早くロシア軍のウクライナからの撤退、戦争終結を心から願いました。
(2017年12月刊。税込660円)
北海道に行ってきました。久しぶりです、旭川での会議のあと、小樽郊外の朝里川温泉の温泉旅館に泊まりました。春には桜の名所のようです。露天風呂に浸りながら、まだ紅葉にはほど遠い緑の楓(カエデ)を愛(め)でました。湯加減が絶妙で、うっとり眠り込んでしまいそうな、いい湯でした。
20年来の友人たちと3年ぶりに再会しました。コロナ禍で死ぬ思いをしたり、経過観察中として執行猶予の身だという告白もあり、みんな年齢(とし)相応に病気もちでした。それでも、日弁連の役職(会長・副会長・事務総長)を終えて、20年たって元気に再会できたことを喜びあいました。私も元気をもらって帰ってくることができました。
2022年10月 5日
「私たちが声をあげるとき」
アメリカ
(霧山昴)
著者 吉原 真理 ・ 三牧 聖子 ・ 土屋 和子 ほか 、 出版 集英社新書
アメリカを変えた10の問い。これがサブタイトルの新書です。マンスプレイニングというコトバを初めて知りました。女性に対して何かと講釈をたれる男性の言動を指した最近の造語だそうです。
トップバッターはテニスの大坂なおみです。最近、ちょっと不調のようですが、まだまだ若いので、ぜひ回復してほしいです。
「私はアスリートである前に、一人の黒人女性です。黒人女性として、私のテニスを見てもらうよりも、今すぐに注目してもらわなくてはならない、ずっと大事で切迫してことがあると感じています」
これって、実にすばらしい声明でしたよね。テニス試合が延期されるなかで、大坂なおみは、はっきり意思表示したのです。
大坂なおみは日本人なのか、アメリカ人なのか...。日本で生まれ、アメリカ育ちの大坂なおみは、2019年まで二重国籍だった。そして、日本国籍を選択した。大坂なおみが「日本人」として認められてきたのは、片言の日本語や「黒人の女の子」という外見にもかかわらず、内向的な性格と控えめな言動によるところが大きかった。
「私はアジア人で、黒人で、そして女性です」
これをそのまま受け入れようとしない日本人が少なくないのが残念です。
アレクサンドリア・オカシオ=コルテスは2018年に29歳でアメリカ下院議員に当選した。プエルトリコ系アメリカ人で、バーニー・サンダース上院議員と同じく民主社会主義者を自認している。マンハッタンでバーテンダーとして働いていた。といっても、ボストン大学を上位4番で卒業している。アメリカにも、こんな人たちが活躍できる基盤があるわけです。日本も負けていられませんよね。
アメリカ南部のアラバマ州でバスの中の白人専用席に座ったローザ・パークスも登場します。行動を起こした1955年に42歳でした。2005年10月に92歳で亡くなっています。
2013年2月、オバマ大統領はアメリカ連邦議会議事堂内にローザ・パークス像が据えつけられたときに、祝辞を述べています。
このころ、アメリカでは選挙民として登録するのに読み書きテストに合格する必要がありました。パークスはなんと2回も「不合格」となったのです。
日本でも女性ががんばっているとはいえ、世界的にみたら、まだまだです。そんな状況を変えたいと願うすべての人々に勇気を与えてくれる新書です。
(2022年6月刊。税込1100円)
2022年10月 6日
日本人が夢見た満洲という幻影
中国
(霧山昴)
著者 船尾 修 、 出版 新日本出版社
私は幸いにして大連に行ったことがあります。1回目は旅順には立入れませんでした。2回目で日露戦争で有名な203高地にものぼりました。「のぼった」といっても、歩いてではなく、観光バスです。頂上には「爾霊山(にれいざん。二〇三)」と揮毫(きごう)された実弾型の記念碑が今もそびえ立っています。この頂上から日本軍は当時もっていた陸軍最大の二八センチ砲で、旅順港内に停泊していたロシア艦船を砲撃したのでした。
私は訪れていませんが、旅順刑務所が建物としてそっくり残っていて一般公開の博物館になっているそうです。ここは、ハルビン駅で枢密院議長だった伊藤博文を暗殺した安重根が収容され、刑死したところでもあります。安重根は今では朝鮮の英雄です。中国でも、「抗日烈士」とされています。
なぜ伊藤博文が満州のハルビン駅まで行ったのか...。ロシアの外務大臣と満州分割を協議するためでした。二つの帝国が自分勝手に中国を分割して統治しようとしたのです。そんなことは許さないとした安重根の暗殺行為が称えられるのには理由があります。
奉天も長春(新京)も行ったことはありませんが、日本は満州国統治の過程でどでかい道路と広場をつくり、高層建築物を次々につくっていったようです。しかも、驚くべきことに、中国は、そのまま、多くの日本式建物を残して、今も使っているのです。
満州国というのは、たかだか13年半ほど存在した「国」にすぎない。
かつての官公庁の建物は巨大で威圧感がある。ただ、デザインが独特で、美しい。これほどたくさん残っているとは思いもよらなかった。いやあ、著者の撮った豊富なカラー写真が、それを実感させます。
関東軍の「関東」とは「関」の東側。「関」とは、万里の長城の東端である山海関の東側に位置するということ。
遼東半島は関東州と名づけられたが、ここは満州国の一部ではない。日本の租借(そしゃく)地という名の領土であった。
満州(マンジュ)は、文殊(モンジュ)に由来する。文殊菩薩(ぼさつ)は、チベット仏教を信仰する女真族がなかでも崇敬していた。
清朝の太祖はヌルハチといい、女真族と名乗っていた。その息子ホンタイジが民族名を満州族と改めた。その民族発祥の地を盛京と呼び、その後、奉天、現在の瀋陽となった。
日本軍に爆殺された張作霖の息子の張学良は満鉄に平行(併行)した鉄道を敷設した結果、満鉄の経営は悪化した。ええっ、満鉄と併行した線路に列車が走っていたというのは初耳でした。満鉄に走っていた特急のアジア号はいかにも格好よいですよね...。
満州国が日本のカイライ政権であることは明々白々でした。それでも、20ヶ国と国交を結んでいたというのにも驚かされます。南京国民政府も国交を樹立したというのですから、開いた口がふさがりません。そのうえ、国交がなくても、アメリカもイギリスもソ連も満州国に領事館を置いていた。いやあ、そうだったんですか...。
ちなみに、現在の北朝鮮と国家を樹立している国は164ヶ国もあるとのこと。これまた驚きです。
私は大連には行ったことがあります。人口600万人という巨大な大都市です。
戦前は数万人ほどの小都市でした。大連の人口は終戦時に60万人、そのうち20万人を日本人が占めた。そして、満鉄がありました。満鉄の社員は総数40万人。現在のトヨタ自動車の社員が36万人なので、それより多かった。これまた、意外や意外の大きさです。
この本で、満州国には国籍法がなかったことを知りました。つくれなかったのです。「五族協和」として、満州人、漢人、蒙古人、朝鮮人、そして日本人です。でも、白系ロシア人も大勢いました。日本は二重国籍を認めていない。だから満州国籍を選ぶと、日本国籍を失ってしまう。でも、日本人は、そんなことはしたくない...。なので、国籍法は制定しなかった、というのです。
満鉄社員は、月給が高いだけでなく、遠隔地手当が充実していて、住宅も提供され、日本企業として破格の待遇だった。
幻の満州国を今も残る豪壮な建物の写真とともにかえりみる貴重な本でした。
(2022年7月刊。税込3080円)
2022年10月 7日
お白州から見る江戸時代
日本史(江戸)
(霧山昴)
著者 尾脇 秀和 、 出版 NHK出版新書
お白州(しらす)とは...、江戸時代のお裁きの場、いわば法廷のようなもの。ここで、法廷と断言せず、「ような」としているところに本書のミソがあります。
実際のお白州は舞台とは違って「法廷」ではない。その構造、用途、本質、みんな現代日本の「法廷」とは異なる。江戸時代独特の何か、なのだ。
江戸時代の裁判には出入物(でいりもの。出入筋)と吟味物(ぎんみもの。吟味筋)という二つの区別がある。出入物とは、原告による訴状の提出に始まる裁判で、「公事訴訟」のこと。原告を「訴訟人」といい、被告は「相手」、「相手方」といった。原被は、必ず、それぞれの所属する町や村の名主・家主・五人組らの同伴が必要条件で、彼らを「差添人(さしぞえにん)」と言った。江戸時代の公事訴訟は、必ず所属集団の承認や同伴を要し、個人の行為としては原則として行えないことになっている。
出入物は、当事者間の示談、つまり「内済(ないさい)」の成立を第一の目的とした。内済不調のとき、奉行が御白州で判決(「裁許(さいきょ)」)を下すことはあったが、それは「百に一つ」と言われたほど少なかった。奉行は、お白州に最初と最後の2回だけだが、必ず登場した。
吟味物は、訴状がなくても、公儀が必要と判断したときに始まる。
訴状を出すと出入物として始まるが、内容次第では、吟味物に切り替えてすすめられることもあった。すなわち、「民事」と「刑事」という裁判の区分は近代以降のもので、江戸時代にはない。
吟味物の判決は「落着(らくちゃく)」と呼ばれる。死罪のときに限って、下役が牢屋敷に出向いて本人に申し渡した。
江戸時代のお白州とは、治者である公儀が被治者である庶民と公式に対面し、公儀による正当な判断を示す場所だと位置づけられた。
奉行は、御白州にのぞむ段に居て、裁かれる者が入ってくるのを待った。
裁かれる者が座る場所には、白い「小砂利」が敷かれた。この砂利の上に筵(むしろ)を敷くことはなかった。
奉行所の門の中に入ると、必ず裸足(はだし)になっていた。
砂利の席は、役人からみて、右が原告(訴訟人)、左の方が相手(被告)と決まっていた。
公事訴訟が盛んになり、待合室(腰掛け)にお酒をもってくる者まであらわれた。
18世紀初頭、御白州は、かつてない「活況」を生みつつあった。
問題となったのは、御白州に、誰とどういう順席ですわらせるか...というもの。帯刀する身分でも、下級武士とされる徒士(かち)には、砂利が敷かれた。
「熨斗目(のしめ)」とは、腰まわりに腰と袖下とに縞や格子の模様を緒りだしたもの。
その犯罪が武士だったころの行為なら、士分の犯罪の勝負として厳罰にさらされた。
江戸時代のお白州における「お裁き」は、治者による被治者への恩恵であり、権利という発想はまったくなかった。そして、お白州のどこに、どんな服装で座るのかは、本人にとって、その属する身分のもつ意味を具体的に示すものとして、大きな意味があった。このとき、先例は絶えず参照された。
明治5年10月10日、御白州に出廷する者への座席の区別は完全に撤廃された。
こんな状況を、こと細かく調べ上げた新書です。いろいろ勉強になりました。
(2022年6月刊。税込1078円)
2022年10月 8日
空のみつけかた
地球
(霧山昴)
著者 武田 康男 、 出版 山と渓谷社
今から30年以上も前、40代初めに南フランスへの語学研修のツアーに参加しました。もちろん夏休みを利用してのことです。学者のサバティカル休暇を真似た法律事務所があると聞いて(北九州第一)、早速とり入れ、実践したのです。
夏の南フランスは雨が降らず、夜10時まで明るく、そして食事は美味しく、人々はワインを飲みながらたっぷり2時間かけるのです。人生を味わい尽くすというフランス人の生き方を私も身につけたいと思いました。
午前中のフランス語教室が終わると、学生食堂で安くて美味しい食事をとります。なんと、ワインつきです。そのあとはまったくの自由時間。広々とした大学構内で空を見上げると抜けるような青空が広がっています。これこそが生命(いのち)の洗濯だと思いました。25歳で弁護士になって20年近くになっていましたから、気分転換が絶対に必要でした。南フランスの青空のすごさは今もくっきり思い出すことができます。
この本は、たくさんの空の現象を長く観察してきた著者による集大成の写真集です。その一は、年に数回はみられそうな空。その二は、年に1度くらいは見られそうな空。その三は、一生のうちに見られたらラッキー、というレアな空。この3つのステージで空が紹介されています。それにしても笠雲というのは、すごいですね。まるで、UFOです。こんな奇妙な形の曇って、見たことがありません。
線状降水帯というコトバを最近知りました。そこでは、にゅうどう雲(「入道雲」とは書いていません)が次々に生まれ成長していきます。にゅうどう雲は、真夏そのものの雲ですね...。
秋空に天高く見えるのは、うろこ雲。これは、空に小さな細胞上の対流がたくさん出来ていて、対流の中に、この雲が発生する。これは私も子どものころから見たことが何回もあります。
この本では、真っ赤な夕日というのは、実はあまりない、としています。空気の澄んだ場所では、橙(だいだい)色の眩(まぶ)しい太陽が沈んでいく。ハワイの夕日は、眩しくて、とても見ていられない。そうなんですか...。
日本は湿気が多く、空はかすみがちなので、赤い夕日を見やすい。
そして、夕日の赤い太陽は、実は丸くない。上下にややつぶれている。これは、上空ほど大器の密度が小さいため。太陽の光が低空ほど浮き上がって見えるからだ。なーるほど。
太陽の左右に、色づいた輝きが見られることがある。まるで、太陽が他にもあるかのようなのに、幻日(げんじつ)と言われた。
虹の色は、アメリカでは6色、ドイツでは5色、イギリスは「ニュートン」以来7色。日本では、7色ですよね。こんなに国によって違うものなんですね。
いくつもの空の写真があって、楽しく眺めることができました。
(2022年8月刊。税込1700円)
2022年10月 9日
生きる力、絵本の力
人間
(霧山昴)
著者 柳田 邦男 、 出版 岩波書店
孫たちが来たら、絵本を読んでやるのが私の楽しみです。一番直近は「ダンプ園長やっつけた」でした。「どろぼう学校」(かこさとし)は私のお気に入りの一つです。福井県にある「かこさとし美術館」には、ぜひ行ってみたいと考えています。
「コルチャック先生」とう絵本があるそうです。知りませんでした。コルチャックは26歳のとき医師(軍医)として、日露戦争に従軍して満洲の地にやってきていたとのこと。ポーランド人のコルチャックは、ポーランドがロシア領だったことから、軍医として召集されたのでした。そこで、戦争の現実をコルチャックは知ります。戦争はしてはならないものだと確信したのです。
30歳台になったコルチャック医師は、ユダヤ人やポーランド人の孤児たちの施設をつくった。ここでは、子どもたちの可能性を引き出し伸ばすために完全な自治制だった。子どもたちが自分たちで議会を開き、法律に相当する規則をつくり、裁判所まで設けた。そのなかでコルチャックが強調したのは、許すという寛容の精神の大切さだった。
ふむむ、なんだかすごいことですね。まったく私の発想にありませんでした。
そして、ナチスが子どもたちをゲットーから強制収容所へ連れ出すとき、コルチャックだけは助かる機会があったのに(この本では脱走する方法があったとされています。当局も対象から除外しようとしたという説もあります)。ところが、コルチャックは、子どもたちの信頼を裏切るわけにはいかない、不安に陥れることはできないとして、自分だけ助かることは拒絶したのでした。そして、コルチャックは、子どもたちの命を救うことはできなかったが、最後の最後まで、子どもたちの不安や恐怖を少しでもやわらげようと、そばから離れなかった。
いやあ、すごいことですよね。私には、とても出来ません。人間って、こんなことが出来る人もいるんですね。信じられません。涙が止まりませんでした...。
大人は子どもが言葉で表現することができないと、何も分かっていないと決めつけてしまう。しかし、子どもは言葉による表現力がまだ十分に発達していないだけであって、分かっていないのとは違う。感覚的には、生きることや生命に関わる大事なことは分かっているのだ。
孫たちに接していると、自分の子のときと違って、少し距離を置いて客観的に眺める(観察する)ことができますので、人間の発達過程がよく見えてきます。子どもは自分本位で、わがままな存在ですが、差別されることは敏感です。ちょっとした違いにもすぐに反応します。そのとき、年齢(とし)や男女の違いは問題になりません。あくまで一個(ひとり)の人間として、自分が大切にされていると感じられるか否かが判断基準になります。その鋭い感覚には呆れてしまうほどです。
この本には、子どもをほめることの大切さが強調されています。大人だって、ほめられたらうれしいものです。子どもは大人以上でしょう。
子どもなのだから、失敗するのは当たり前。それよりも、「ちょっとだけ」の成功を見落とさず、しっかりとほめてあげるのが大切。そのとおりです。
子どもは叱られてばかりいると、どんどん自己肯定感をもてなくなり、粗暴になったり、逆に引きこもったりして、素直に自己表現することができなくなる。子どもを見ていると、その親の子への接し方が分かる。弁護士として、依頼者に接したとき、ああ、この人は子どものとき、人間は信頼できるという安心感をもつことができないまま大人になったんだなと実感させられる人が少なくありません。
著者は「絵本は人生に三度」と言ってきた。一度目は、自分が子どものとき。二度目は、子どもを育てるとき。三度目は、とくに人生後半になったときや思い病気なったとき。三度目は、私のように幸いにも孫がいるときをふくむのでしょうね。
絵本は子どもだけのためではなく、大人のためでもあることを気づかされる本でした。
(2014年1月刊。税込1650円)
2022年10月10日
虹色のトロッキー
中国
(霧山昴)
著者 安彦 良和 、 出版 中公文庫コミック版
戦前、日本は中国東北部を「満州国」として「独立」させて支配していました。そのとき、日本軍部は日本政府と対立・抗争する関係にあり、日本軍部のなかでも暗闘が繰り広げられていました。それぞれの思惑が微妙にからみあって、難しいバランスの下で「満州国」は成り立っていたのです。
そして、「満州国」には、相当数の白系ロシア人がいました。ロシア革命によって、ボリシェヴィキ・ソ連共産党から追われ、また嫌ってロシアの地を離れて中国に入りこんできたのです。日本軍の一部に、そんな白系ロシアの反共勢力と結びつこうとする動きがありました。本書の「トロッキー」は、そのような動きを象徴するものだと受けとめました。
1巻から読みはじめて、8巻までを読了するのに、マンガ本なのに1ヶ月近くもかかったのは、満州国をめぐる複雑怪奇な動きを理解するのに骨が折れたからです。
それにしても、私とほぼ同じ団塊世代の著者のストーリー展開は見事なものですし、絵もよく描けていると驚嘆するばかりです。
満州に満州国エリート層を養成するための「建国大学」があったことは、このマンガ本シリーズを読む前に知りましたし、このコーナーでも紹介しています。「エリート養成」が看板ですから、思想的な締めつけはほどほどにしておく、つまり、かなりの自由主義教育がすすめられていたようです。でも、しょせん、軍部支配下での「自由」でしかありませんでした。
満州国の首都は新京と名づけられ、近代的な大通りと豪層な建築物が立ち並びました。現在の長春です。
そして、ハルビンには郊外に七三一部隊の本拠地があり、3000人以上もの罪なき人々をスパイ容疑などで捕まえ、人体実験の材料(「マルタ」と呼びました)とし、その全員を殺害・焼却してしまったのです。
満州国で幅をきかせたのは、石原莞爾、甘粕正彦、東条英機そして辻政信らがいます。
辻参謀は、ノモンハン事件においても、甚大な被害を日本軍にもたらしました。
ノモンハン事件においては、ソ連軍の圧倒的な軍事力の下で、日本軍(関東軍)は、みじめに敗退していったのでした。
モンゴル人将軍と日本人青年の出会いと結びつきの強さも登場します。いかにもスケールの大きな、ストーリー展開でした。
それにしても、8巻シリーズという長編を完結させた著者のすごい力技(わざ)に脱帽します。
(2019年4月刊。各税込692円)
2022年10月11日
おしゃべりな脳の研究
人間・脳
(霧山昴)
著者 チャールズ・ファニーハフ 、 出版 みすず書房
スポーツのコーチング界では、セルフトークがきわめて重要だと思われている。やる前に「おまえならできる」というほうが、「おまえには無理だ」というより、プレイヤーの成績は良い。これは、私もよくしていることです。内面の自分に話しかけ、励ますのです。
以前は読むという行為は、一般に声を出してすることだった。日本でも明治初期まで人々は音読、つまり声を出して読みあげていました。今のように新聞を黙読するという習慣はなかったのです。
ほとんどの子どもは音読をまず覚え、その後、しだいに声を出さなくなり、最後には完全に黙って読むようになる。脳内で読むほうが、音読するより速い。視覚情報を音声にもとづく符号に変換し、それから意味を引き出すかわりに、音声の段階を省き、視覚情報から意味情報へと直行できる。こちらのほうが、脳の仕事は少ない。
すらすら読める人でさえ、とくにテキストが難解なときは、読みながら舌を動かす。
読むときに引き起こされる内言は、ときに自分自身の声であり、自分のなまりの特徴も備えている。そして、著者を知っているときには、その人の声が内言で聞こえることすらある。
著述家は、著者のページを通じて、文字どおり話しかけることができる。
小説家がもっとも興味を抱いている声は、おそらく登場人物の声だろう。声は登場人物の私的な思考プロセスや内言でさえありうる。これこそ、小説を読む醍醐味のひとつだ。頭の中が声でいっぱいになる。
過去について記憶違いをしているとき、その一因は、古いほうの記憶が現在の自分の物語と合致しないことにある。それで、物語に合うように事実を変えてしまう。
私たちは、みな断片化されている。単一自己など存在しない。誰もが、みなバラバラに分解した状態で、その瞬間ごとに、まとまった「私」の幻影をつくりあげようと格闘している。どの人も多かれ少なかれ解離状態である。
私たちの自己は絶えず構築され、再構築される。これは多くの場合、うまくいくが、失敗に終わることも少なくない。
私は弁護士として、たまに多勢の人の前に立って話をすることがあります。以前は、あらかじめ原稿を用意していましたが、今では、せいぜいポイントとなることを、いくつか小さなメモ用紙に書き出すだけにしています。大勢の人が自分を見ていると、その場の雰囲気をつかんだ私の脳が、即座にストーリーを組み立ててくれますので、それを文字どおりなぞって話を展開していきます。不思議なことに、話の展開は、私の内面から湧きあがってくるのです。まさしく内なる自然現象に身をまかせます。
ジャンヌ・ダルクは、神の声を聴いたということでした。同じように、聴覚的に、視覚的に、身体的に知覚できないときでも、知覚することがある。なんとなく分かります。
何かがいる気配というのも実際にあることなんですよね。その内なる声に耳を傾けたほうがよいことが多いということです。
(2022年4月刊。税込3960円)
2022年10月12日
わたしの心のレンズ
人間
(霧山昴)
著者 大石 芳野 、 出版 インターナショナル新書
高名な写真家である著者が50年に及ぶ取材生活を振り返った新書です。
まだ駆け出しのころ、「女流カメラマン」と呼ばれたとき、著者は「私は流れていません」と反発した。すると、「かわいくないねー」と嫌味を言われた。なるほど、そういう時代があったでしょうね・・・。
まずはパプアニューギニアへの取材旅行を紹介します。1971年、まだ著者が20代の娘だったころのことです。そんなところに若い女性が一人で行くなんて、とんでもないと周囲から何度も止められた。もちろん止めるでしょうね。それでも著者は出かけました。
パプア人とは、縮れ毛の人という意味。ここでは、一夫多妻の習慣をもつ部族が多い。でも、ひとりの母親は3人の子までしかもたない。なぜか・・・。「森が壊れてしまうから」。 人口が増大すると森が壊れ、結局、打撃を受けるのは自分たちだと、みんなが考えている。
著者は、山中の村に長く滞在し、ロパという女性と親しくなった。現地の言葉も話せるようになったのでしょうね。女性は特殊な草を食べて避妊していた。
そして長く村に滞在していると、著者を「見に来る人」が増えて、「人気者」になったとのこと。ノートにメモをとっていると、その一挙手一投足まで皆がじっと注目し見つめる。そこで著者が、「私は動物園のサルではない」と訴えた。それに対して返ってきた言葉は、「サルより面白い」というもの。なーるほど、そうなんでしょうね。明治初期に東北地方から北海道まで日本人の従者一人を連れて旅行したイギリス人女性(イザベラ・バード)が、まさにそうだったようです。
ここでは、男女ともに、自分たちの祖先はワニだと信じていたる。そして、男性はワニと同じように強くなるための苦行を経なければいけない。村人、とりわけ女性を守るのは勇敢な男性なので、そのために男性は心身を鍛えなければならない。ワニの化身になった男性の肌にはワニ柄が彫られている。これを、男女とも、みんなが「美しい、たくましい」と言ってあがめる。
背中にカミソリをあて、傷口に黄色い粘土をすりこんでいく。とても痛いらしい。それをじっと耐える。この背中の傷がいえるまでに、少なくとも1ヵ月はかかる。いやはや、「勇敢な男」になるのも大変なんですね・・・。
世界各地のドキュメンタリー写真をとってきた著者はベトナム、カンボジアを含めて、世界各地に足を運んでいて、鋭く問題提起をしていて考えさせられる新書です。
(2022年6月刊。税込1089円)
2022年10月13日
戦前の日本
日本史(戦前)
(霧山昴)
著者 武田 知広 、 出版 彩図社
教科書には載っていない、戦前の日本の現実が紹介されている興味深い文庫本です。
現代日本の国会にもヤクザ出身ないしヤクザまがいの議員がいました(います)よね。でも、戦前は、まさしく本物のヤクザの親分が議員としていたようです。
その一人が、「九州一の大親分」とまで言われた吉田磯吉。北九州に君臨した親分です。20年ものあいだ国会議員をつとめ、二・二六事件の起きた1936(昭和11)年に70歳で亡くなったとき、葬儀に2万人が参加したとのこと。安倍国葬をはるかに上回りますよね...。
次は小泉純一郎元首相の祖父の小泉又次郎。こちらは横須賀の大親分で、「倶利伽羅紋々」のすごい親分だった。
この本に登場する衝撃的な出来事の一つに、1927(昭和2)年の山形県立高等女学校の生徒200人がポルノ写真のモデルになったというものがあります。写真屋で、女生徒が全裸のほか、コスプレ写真も撮らせて、モデル料30円(今なら10万円)もらっていたとのこと。全校生徒750人のうち200人というのには、圧倒されます。こんな話、今まで聞いたことがありませんでした。本当でしょうか。いったい、なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか。この事件の顛末(てんまつ)をまとめた本があったら、ぜひ教えてください。
日弁連の人権擁護大会で旭川に行きましたが、旭川は戦前に有名なスタルヒン投手の育ったところで、今も「スタルヒン球場」があるそうです。スタルヒンは元ロシア貴族の出身で、中国(満州)のハルビン経由で北海道・旭川に住みついて父親はダンスホールを経営していたとのこと。
戦前の日本はアジアの革命輸出基地になっていた。たとえば、昭和初期に中国人留学生が5000人以上、日本にいた。そのなかには、周恩来や魯迅(ろじん)もいた。
戦前の日本には、徴兵制度がありました。韓国には今もあり、BTSが入隊するのが免除されるかどうかが、大いなる話題になっているのが徴兵制度。日本でも韓国でも、ホンネでは、みんな兵隊になんかなりたくないのです。
250頁ほどの文庫本ですが、中味はぎっしり、ずっしりと重たいのです。一読の価値があると思います。どうぞ、ご一読してみてください。
(2016年9月刊。税込712円)
2022年10月14日
戦争と文学(日中戦争)
日本史(戦前)
(霧山昴)
著者 火野 葦平 ・ 石川 達三 ・ 五味川 純平 ほか 、 出版 集英社文庫
戦前は、「日中戦争」とは呼ばれなかった。「支那事変」と呼ばれた。というのも、戦時国際法は、戦争を始めるとき、最後通牒の提示と、宣戦の布告を定めていたが、日中間一連の武力衝突は、それら国際法上の義務を欠いていた。なので、「戦争」ではなく、「事変」と呼んだ。
日本は、この「事変」に35個師団と、のべ200万にのぼる大兵力を動員し、40万人以上の戦死者を出した。
日本軍は、どんな奥地にも慰安所を設置した。これは軍そのものが管理した。民間人が勝手に設置することが許されるはずはなかった。
兵隊たちは、奥地で設置された場所にいる中国人の女か、また別の、ちがった場所にいる朝鮮人の女たちのところへ通うようになっていた。その朝鮮娘たちも、みんな国防婦人会にはいっていて、天長節そのほかの記念日や、祭日には、洋服を着たり、和服姿で、肩に「国防婦人会○○支部」と黒く染めぬいた白いタスキをかけ、同じ服装をした芸奴たちと並んだ。
討伐(とうばつ)という言葉は好きでない。ウサギ狩りのように、何か簡単に掃蕩(そうとう
)ができるものと思われがち。しかし、華々しくはない。討伐ほど困難で苦労の多い戦闘はない。これまでの経験では、討伐のほうが、かえって苦戦し、多くの犠牲を出している。敵は堅固な陣地を構築し、機関銃や迫撃砲を有している。討伐戦では常に壮烈な激戦が行われる。
兵士たちは、「今度のチャンコロは馬鹿にすると、ひどい目にあうぜ」と、差別語まる出しで、恐怖心をあおりたてた。
いやはや...。でも、今でも右翼雑誌が堂々と書いて宣伝していますよね。たとえば、国葬反対の国民世論を操作しているのは左翼弁護士だ。また、国葬反対運動のバックには共産党がいる...などです。こんなインチキに惑わされて信じ込む人がいるのも残念ながら現実です。
戦争をあおりたて、戦争を美化して戦争の現実から国民の目をそらさせようとしていた戦前の日本社会を振り返ってみました。700頁という部厚い文庫本の大作です。
(2019年11月刊。税込1870円)
2022年10月15日
きのこの自然誌
生物・キノコ
(霧山昴)
著者 小川 真 、 出版 山と渓谷社
私が好きなきのこはシイタケとマイタケです。焼き鳥屋で肉厚のシイタケを焼いてもらって食べると最高ですよね。マイタケは、やっぱり天プラですね。
マツタケなんて、何年も食べたことがありません。わざわざ超高価なマツタケを食べようとは思いません。それ以外のきのこは、毒きのこのイメージが強くて、とても手が出ません。毒をもつフグなら、ちゃんとした店で調理したものに限ります。
フランス料理の珍味の一つのトリュフ。ブタが、このきのこの匂いにもっとも敏感。だけどブタはともかく頑固で、人間の言うことを聞かずに、見つけたトリュフをさっさと自分で食べてしまう。なので、ブタをつかってトリュフを探すのは困難すぎる。
イタリアには、トリュフ狩り用のイヌの訓練校があるとのこと。トリュフの匂いに敏感なハエがいて、それでトリュフを探す。というか、トリュフの匂いは、このハエを招き寄せるためのもののようだ。トリュフは有史以前、ギリシャ、ローマ時代に、既に珍味中の珍味になっていた。
トリュフは日本ではほとんど採れない。日本は土壌が酸性で、かつ雨量が多い。しかし、トリュフは湿った場所を嫌い、アルカリ性の土だけを好む。石ころ混じりの腐植の多いアルカリ性の土地を好む。年間雨量が600から900ミリの地帯にのみ発現する。このように、トリュフの栽培は、マツタケと同じように難しい。
きのこの縄張りは、広がったり、食われたり、入れ替わったりと目まぐるしい。10年もすると、すっかり種類が変わってしまうほど。それぞれの種が、それぞれの暮らし方にしたがって、縄張りをつくり、互いに競争しながら精一杯生きている。
マツの老齢林でマツタケが見る間に出なくなるのは、若いマツの根が少なくなり、落葉が厚くなって、地表に敵がふえ、シロが次々に攻められ、マツタケがきのこ戦争に敗れるためだと考えられている。関西では、昔からマツタケの出る場所をシロと呼びならわしている。
マツタケの生えるマツ林にうかつに近づくと、「泥棒っ」と怒鳴られてしまう。
マツタケのない地方では、山への出入りは勝手放題だし、人の心ものどかだ...。なーるほど、ですね。
人を殺すほどの猛毒をもっているのは、タマゴテングダケとドクツルタケ。
『今昔物語』に出てくるきのこは、「オオワライタケ中毒の症状」とそっくりだという。
さすが、キノコを長年研究したことがこうやってまとめれているのです。すごいきのこ図鑑(文庫本)です。
(2022年2月刊。税込1188円)
2022年10月16日
昆虫食スタディーズ
生物(昆虫)
(霧山昴)
著者 水野 壮 、 出版 同人選書
地球環境を守るため、昆虫を食べよう。そんな呼びかけをしている本です。
昆虫はこれまでの家畜と同じく栄養価が高く、かつ、地球環境免荷を軽減できるエース級の動物タンパク源だ。
2050年までに世界の人口は90億人に達する。そして、2010年から2050年にかけて、肉と牛乳の消費量は58%も増加する。すると、肥料の需要が増加し、牛・豚・鶏肉の価格は30%以上あがる。そのうえ、地球温暖化を促進してしまう。
家畜に代わる代替タンパク質として期待されているのが昆虫。
実は、古くから昆虫は人類の食料として利用されてきた。現在でも、世界で20億人以上が昆虫を食べ、2000種もの食用昆虫がある。
昆虫のタンパク質含量は乾燥重量あたり40~75%。これは牛肉・豚肉に匹敵いやそれ以上の豊富なタンパク源。しかもタンパク質を構成する必須アミノ酸の組成も悪くない。
昆虫は、とくにビタミンB群を豊富にふくむ種が多い。
昆虫の炭水化物は、表皮を構成するキチンが大半。キチンは機能性食物繊維としての活用が期待できる。キチンやそこから生成されるキトサンはコレステロールの体内への吸収を低下させる作用がある。昆虫由来のキチンは、カルシウム含量が少ないので、精製が容易。また、加水分解されやすいので、さまざまな用途への活用が期待できる。
昆虫の温室効果ガス排出量は非常に低い。それはメタンガスをほとんど生成しないことのほか、変温動物のため代謝量が低いため。
たとえば、イエバエとアメリカミズアブを養殖したら、1ヘクタールの土地で年間150トンのタンパク質が生産できる。しかも、高密度で飼育でき、発育スピードも非常に速い。さらに、昆虫の水分摂取量は非常に少ない。また、少ない餌で効率よく育つ。
廃棄物を昆虫が食べて育つことで、廃棄物はタンパク質に変わる。
イエバエは卵から成虫になるまで35度で1週間。アメリカミズアブは、卵から蛹まで1ヶ月。コオロギもイナゴも日本では昔から食べてきた。ハチノコも年間数キログラムが消費されている。
昆虫食ビジネスが注目されている。そこまでは理解できます。でも、その昆虫のなかに、ゴキブリまで対象となっていると聞くと、うえーとなりそうです。だけど、そこを乗りこえないとビジネスにはならないのでしょうね、きっと...。
(2022年2月刊。税込1870円)
2022年10月17日
タヌキって、何?
生き物・タヌキ
(霧山昴)
著者 佐伯 緑 、 出版 東京大学出版会
タヌキ学の黒帯的研究者が、令和のポンポコ事情を明らかにする。大いなる「狸想(りそう)」を掲げ、「真狸(しんり)」を追求。
オビの文句は、かくも勇ましいのです。著者が空手の極真会で有段者であり、子どもたちにも空手を教える身だからです。空手をするタヌキなどのイラストも著者が描いたものです。まことに多才の人です。
食肉目イヌ科であるタヌキの骨格は、基本的にイヌと同じ。
タヌキは器用貧乏。走りも泳ぎも登りも狩りも、みな、ある程度こなせる。でも、同じ食肉目内の走りはオオカミ、泳ぎはカワウソやイタチ、木登りはアライグマ・ハクビジン・テン、狩りはキツネ・オオカミ、穴掘りはアナグマにはかなわない。
タヌキの得意技は、小さな隙間を通るのがうまいこと。
タヌキは、「溜め糞(ためふん)」と呼ばれる共同トイレを使う。ゲージ内では一つの溜め糞を家族で使い、知らないタヌキの糞があると、その上にする。つまり、自分(家族)と他狸とを臭いで識別できる。
タヌキは、好き嫌いは言わない、食べられるときに食べるチャンスは逃がさない、これをモットーとして、しっかり生きのびてきた。
野生のタヌキは、一日一日が死と生の選択で過ぎていく。タヌキの寿命は、野生で6~8歳、飼育下だと20年近い。野生で生きるのは、それだけ厳しい。
イヌ科は北アメリカで、誕生した。そして、ベーリング海峡を伝って、ユーラシア、さらにアフリカへ進出していった。
日本のタヌキは、寒さ対策がゆるんで、食べものも肉食系雑食より、昆虫・果実食系雑食になった。
タヌキは繁殖力が強い。1腹の子が8~10頭。最高記録は16頭。1歳のメスの3分の2が出産する。出産後は、哺乳類としては珍しく父親による高度な育児がある。
そして、タヌキはオス、メスともに遠くに広がる(分散能力)がある。20キロ、40キロは珍しくなく、ドイツでは91キロ、スウェーデンでは650キロも移動したことが確認されている。
戦前の日本ではタヌキの養殖が盛んだった。それは、兵士の防寒装備としてタヌキの毛皮が使われていたということ。アメリカに輸出もされていた。
キツネとタヌキは、どちらも中型のイヌ科。
タヌキは「ロードキル」で死ぬことが多い。道路に出たところを車にはねられて死ぬ。これは、タヌキが鈍いのではなくて、防御行動として「立ち止まり型」をとる結果。
著者はアメリカやイギリスの大学で野生生物を研究したあと、日本に戻って、千葉でタヌキを追いかける研究者になりました。これは千葉に親戚が住んでいたことが大きいようです。それにしてもタヌキを飼ったり(病気やケガをしたタヌキを養生させるため)、まことに好きじゃなければ、やってられないと思いました...。
(2022年7月刊。税込3630円)
2022年10月18日
私がつかんだコモンと民主主義
社会
(霧山昴)
著者 岸本 聡子 、 出版 晶文社
本年(2022年)6月に、杉並区長に当選した著者の半生を振り返った、刺激的な本です。現職区長をわずか187票差で破って当選した女性ですが、この本によると、女性のほうが政治家には向いているとのこと。なぜなら、他人への想像力が政治家の仕事の本質だから...。政治家に一番大切な資質は、自分とは違う立場の人たちをどこまで想像できるか、自分の知らない不都合を当事者から学び続ける謙虚さだ。
なるほど、ですね。まったく異議ありません。
著者は区長になる前は、市民運動の専従事務局のようにして活動してきました。より正確にいうと、オランダ・アムステルダムに事務所があるトランスナショナル研究所(TNI)でスタッフとして働いてきました。このTNIは、NGOというより、市民・社会運動を支援する左派系の活動家兼研究者のシンクタンクのようなもの。この団体の主要言語は英語とスペイン語。
著者はオランダに住みながら、そして息子たちはオランダ語ペラペラなのに、自分はオランダ語は話せないし、話す努力はもう放棄したとのこと。
人生は言語ばかり勉強するほど長くはない。これまた、なーるほどです。でも、私はフランス語だけは、今もあきらめることなく勉強を続けています。
著者は、たとえば水道の民営化に反対する運動に取り組みました。水道を民営化すると、自治体財政は公営のときよりも結果的に悪化してしまう。それは、水質が低下する。必要な投資がなされない。水道料金が値上げされて市民生活を直撃する。企業に支払う委託料が不透明に値上がりする。自治体が水道運営・財務情報を企業に求めてもきちんとした情報が得られない。専門職をふくめた労働者が首切られる。こんな問題があるからです。
ふむふむ、こういった実情・実態は広く知られる必要がありますよね。それの手助けをするのが、著者たちTNIなのです。
このほか、スウェーデンの高校生だったグレタと同じように、著者は地球環境保全の取り組みにも関わっています。
そのため、著者とパートナーは自動車を持たないどころか、運転免許も保有していないとのこと。それではベルギーで生活するのに不便なこと、このうえない。
ベルギーで育った著者の息子はベルギーの大学に入った。その体験談は刮目(かつもく)です。まず、ベルギーには大学入試がない。といっても、入ったからといって、誰でも大学を卒業できえるわけではない。半分は2年生になれない。つまり進級試験に半分は合格できない。そして、学費はなく、年間登録料として11万円ほど納付するだけ(収入の少ない家庭は半額以下に減免される)。
どうして、そんなことが可能なのか...。それは、教育に膨大な公費、つまり税金が投入されているから。公費で82%をまかなっている。これは日本の31%に比べると2倍以上。日本も公費負担を一気に引き上げる必要があります。軍事予算を2倍、10兆円にする前に、教育予算こそ倍増すべきです。
222頁の本ですが、著者のはつらつとした、意気軒高な文章に圧倒されてしまいました。
(2022年9月刊。税込1760円)
2022年10月19日
松川事件と「諏訪メモ」
司法
(霧山昴)
著者 北大生・スパイ冤罪事件の真相を広める会 、 出版 左同
松川事件が起きたのは1949(昭和24)年8月17日未明のこと。団塊世代の一人である私が生まれた翌年です。国鉄(もちろんJRではありません)の東北本線で旅客列車が脱線転覆し、乗客は無事だったが、乗組員3人が死亡。線路を固定するための枕木に打ち込んである犬釘(いぬくぎ)が抜かれ、カーブ外側のレール1本が外されていた。
警察は共産党の犯行だとして容疑者20人(うち共産党員14人)を逮捕し、検察庁は全員を起訴した。裁判所の判決(1950年12月6日)は全員有罪で、5人が死刑、5人に無期懲役刑が宣告された。
このパンフレットは、毎日新聞福島支局にいた24歳の新米(しんまい)記者が松川事件で被告人たちにアリバイがあることを裏づける団交メモ(諏訪メモ)を掘り起こすまでの苦労話を生々しく紹介したものです。
当時は、記者の「サツ回り」ものんびり、人間的で、おおらかだったのでした。地検の検務課で「赤銅鈴之助」のマンガ本を借りて記者が読みふける、次席検事は麻雀が大好き。そして、諏訪メモを個人的に預かりもっていた鈴木久学検事が福島地検に戻したのを目撃し、その足で受けとった検事正に正面突破で諏訪メモの存在を問いかけたのです。
「あったのですね?」
「うん、あった」
「佐藤(被告人)が出席していますか?」
「いる」
「何時までいましたか?」
「午前中いた」
このやりとりだけで、諏訪メモの現物を見ることもなく、著者は毎日新聞福島版(1957年6月9日)のトップ記事として、「諏訪メモ発見さる」を一面トップで大きく報道したのです。記者は若かった世間知らず。だからこそ正義感に燃えて、(メモの現物を見なくても)踏ん切れた。
この大スクープのあと、警察・検察官で食事をしていると、警部補から、「お前はいつからアカの手先になったのか」と大声をあげ、著者が酒をつごうとすると「アカの酒なんか飲めるか」と徳利を払いのけた。
「なんとかメモなどと屁にもならんことを書きやがって、アカからいくらもらったのか」
いやはや大変な大立ち回りがあったのでした。この警部補は少年の赤間被告を追い込んで「赤間自白」をとった男です。
被告人たちの「共同謀議」が成立するためには午前11時15分松川発の列車に乗って福島に行かなければいけない。しかし、会社と労組の団交は正午ごろまで続いていて、最後に発言したのは佐藤被告。この経過を団交の場にいた会社側の人間(諏訪氏)が詳細にメモしていたのです。ということは、佐藤被告が午前11時15分発の列車にのることはありえない。つまり、「共同謀議」に参加できない。なのに有罪、しかも死刑を宣告された。そんな馬鹿な。
この記者も「アカの手先」として警備部によって身元調査がなされていた。怖いですね。
松川事件の被告弁護団には、地元の自民党有力者であり、県の公安委員会をつとめている袴田重司弁護士、そして田中耕太郎最高裁長官の実弟・田中吉備彦弁護士も加わっていた。まさしく超党派から成る弁護団だった。
1959年8月10日、最高裁は原判決を破棄して差し戻す判決を言い渡した。
宮本検事正は、諏訪メモを消滅させることは可能だった。でも、私にはできなかった。最高検から消滅せよという指示が来る前に世間に公表すれば、もはや消滅させられない。毎日新聞の記者が権力をはねのけて追及してくれることを信じて、諏訪メモの存在を認めたのだ、と語った。いやはや、どこの世界にも良心を大切にしたいと考えている人はいるものなんですね...。
倉嶋記者と大学時代からの友人である石川元也弁護士(大阪)からいただきました。
(2022年2月刊。無料)
2022年10月20日
DHCスラップ訴訟
司法
(霧山昴)
著者 澤藤 統一郎 、 出版 日本評論社
DHCという会社の製品を私自身は利用したことがありませんが、サプリメントや化粧品の製造販売業者として、日本最大手の売上高のようです。派手に広告していて、天神地下街にも店舗をかまえています。そのDHCのオーナーの吉田嘉明会長は、とんでもない差別主義者で、デマやヘイトを散々吹聴してきました。
そして、その吉田会長が自ら週刊誌(「週刊新潮」)に「みんなの党」の渡辺喜美党首に規制緩和のための「裏金」8億円を提供していたことを告白したのです。その意図は何だったのでしょうか。恐らく渡辺喜美が8億円に見合うだけの仕事をしなかったという怒りからなのでしょう。
著者は、そのことを自分のブログで取りあげて鋭く批判しました。当然のことです。8億円もの「裏金」で国会議員を「買収」して国の政策をねじ曲げようとするなんて、言語道断です。それを知ったら批判しないほうが不思議です。ところが、DHC側は著者に対して名誉毀損だとして2千万円の賠償を求める裁判を東京地裁に起こしたのでした。こんな裁判をスラップ訴訟といいます。
スラップ訴訟とは耳慣れないコトバです。セクハラ、パワハラは、今ではすっかり日本語として定着していますが、そのうち定着するコトバなのでしょうか...。
「スラップ」というのは、アメリカの教授の「造語」。確定した定義はなく、日本語の訳も定着していない。スラップとは、誰かを脅し、その誰かの言動を萎縮させようという意図をもってする民事訴訟のこと。「萎縮」というのは、「びびらせる」というコトバがピンと来る。
DHCは、著者のブログでの批判について、2000万円の損害賠償と記事の削除、そして屈辱的な謝罪文の掲載を求めた。
著者がブログで批判したのは、2014年3月31日から4月8日(その後も...)。これに対してDHCは何の前触れもなく、いきなり4月16日に東京地裁に訴状を提出した(DHCの代理人は今村憲弁護士)。
そこで、著者は弁護団を確保した。常任弁護団8人、136人の弁護団という構成であり、学者の協力も得た。
著者がその後もブログでDHC批判を続けていると、DHC代理人の今村弁護士から警告書が送られてきて、2千万円の請求が6千万円に拡張された。
そして、著者が弁護士会照会をかけたところ、DHCは同種のスラップ訴訟をほかにも10件起こしていたことが判明した。そして、DHCは名ばかりの和解金(たとえば30万円)を被告雑誌社側に支払わせて和解で裁判を終了させていた。
一審判決は、当然のことながら、DHC側の請求を棄却するという勝訴判決。ところが、DHCは控訴した。東京高裁(柴田寛之裁判長)でも、もちろん控訴棄却となり、著者側が勝訴した。
名誉毀損訴訟では、「事実の稿示」と「意見ないし論評」の2つに区分して判断されていることを初めて知りました。裁判所は、「事実の稿示」のほうでは見る目が厳しく、「意見ないし論評」のほうは、とても寛容なんだそうです。「意見・論評」は、極端な人格攻撃を伴わないかぎり、論評は自由。
DHCの名誉毀損訴訟が請求棄却になったあと、著者はDHCに対する反撃訴訟を提起しました(正確には、DHC側からの債務不存在確認訴訟が先)。なぜ、前訴で反訴提起しなかったのか、また賠償請求額をいくらにするか、弁護団で議論があったようです。
6千万円を請求されたことを考えると、その弁護団費用だけでも1千万円をこえても不思議ではないけれど、600万円を請求したのでした。
この裁判の判決は、またもや著者らの請求を認容する勝訴判決。ただし、認容された賠償額は一審110万円、二審165万円。ちょっと少ないですよね。
DHCの訴訟提起は、客観的に請求の根拠を欠くだけでなく、DHC・吉田は、請求の根拠を欠けていることを知っていたか、通常人であれば、容易にそのことを知りえたにもかかわらず訴えを提起したのは、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合にあたり、提訴自体が違法行為になる、としたのでした。
そこで、著者はいくつか問題提起をしています。その一つがDHC代理人の今村憲弁護士への責任追求が必要だったのではないか...、ということです。たしかに、法律専門家としての弁護士の責任は看過できませんよね。
最後に二つだけ。その一は、被告で訴えられたときの不安な気持ちです。私は交通事故訴訟の原告になり(一審で不本意な判決をもらい、控訴して和解しましたが、不本意な判決が保険会社に有利な判例として判例集に登載されたので、親しい弁護士からおこられました)、また、別にも勝つべき事件で敗訴したとして訴えられて被告になりました(こちらは被告として、弁護士賠償保険に連絡ととりつつ本人訴訟で追行しました)。たしかに被告事件になると、気持ちのいいものではありません。
その二は、著者の長男も弁護士になったので、著者への本人尋問は、息子さんが担当したとのこと。息子の発問に、父親が答えるというのは、あまり例のない法廷風景だろう。そう書かれていますが、きっとそうでしょうね。
240頁の本ですので購入した翌日に一気読みしました。面白かったです。でも、スラップ訴訟って、まだまだ多くの人(弁護士ふくむ)には、ピンとこないでしょうね...。
(2022年7月刊。税込1870円)
2022年10月21日
ドレスデン爆撃1945
ドイツ
(霧山昴)
著者 シンクレア・マッケイ 、 出版 白水社
都市住民への無差別空爆を世界で初めて始めたのは日本軍。そしてアメリカ軍も1945年3月10日の東京大空襲で、一夜にして10万人以上の死傷者を出しました。日本の木造家屋を焼き尽くすために焼夷弾を念入りに開発・改良して実行に及んだのです。それを指揮したアメリカのカーチス・ルメイ将軍は戦後、日本より勲一等を授与されました(その名目は航空自衛隊の育成に貢献したこと)。罪なき日本人を10万人以上も殺傷した「敵」軍に勲章を授与するという日本政府の神経が信じられません。アメリカのやることなら何でもありがたがる、自民党政府の奴隷根性がよくあらわれています。
さて、この本は同じ1945年2月13,14日に英米空軍の猛威爆撃によってドレスデンが灰燼(かいじん)に帰した前後の状況を描いたものです。
ドレスデンはドイツ南部の都市、オーストリアに近い。しかし、かつてのナチス・ドイツの領土としては、中心部に位置する。そして、ヒトラー・ナチスの政策を早い段階で熱狂的に受け入れていた都市でもある。
終戦のわずか数週間前、1945年2月13日の一晩に、英米空軍の爆撃機796機が飛来して、「地獄の門を開いた」。この地獄の一夜で、2万5千人もの市民が殺された。
ソ連軍のドイツ進攻によってアウシュビッツ強制収容所が解放され、ユダヤ人の大量虐殺の事実が明るみに出たのは、この少し前の1月27日のこと。
ドイツの戦争遂行意思をなくすためには、産業施設に限定することなく、都市の破壊、労働者の殺害そして、共同体生活を崩壊させること。イギリスの爆撃機軍団のサー・アーサー・ハリス大将は、そう主張した。
爆撃は、まず照明弾投下機が一番に飛ぶ。一番に濃線色の照明弾を投下すると、明るい白色の棒状の焼夷弾が滝のように落ちていく。後続機が、赤い照明弾を落とす。そして、橙色、青、淡紅色がそれぞれ違った目標の目印となる。航空機乗組員は、みな志願兵だった。しかし、みな神経がずたずたになっていく。そして出撃中毒にもなる。
爆撃機はドレスデンの3千から4千メートル上空から、木造建築の内部と周囲に火をつける目的で、2種類の殺傷兵器を投下した。まず重さ1.8トンのブロック・バスターあるいはクッキー爆弾。路上にいた者は、みな爆発で発生した火で瞬時に炭化し、着衣を焼き尽くされ、裸の遺体が地面に残される。
第一波の爆撃機244機とモスキート9機は、15分間のうちに、880トンの爆弾を投下した。その57%が高性能爆弾、43%が焼夷弾。そして、1.8トンの投下地雷弾などによって建築物が破壊された。数十万の焼夷弾が、さまざまな装置で点火されて次々に投下され、床板、家具、木造梁(はり)、衣類の只中で、ますます燃え盛る炎に燃料を注いだ。
第二波の爆撃機は552機。1.8トンの「クッキー」、その他の爆弾と焼夷弾、総計1800トンが炎の届いていない地域に投下された。
この前、B17爆撃機による精密爆撃は、望まれていたほど精密な結果をもたらさなかった。目標から何キロも離れたところに落下した。
このドレスデン爆撃について、ナチスのゲッペル宣伝相は「テロ爆撃」と非難した。そして、大量の市民を無差別に死に追いやっていいのかという論理的問題として大いに議論となった。ハリス大将は、イギリス王室からの勲章授与には応じたが、政府からの表彰は回辞した。
イギリス空軍は、5万の搭乗員が戦死した。30回の作戦飛行から生還できた者は3人に1人もいなかった。ドイツ空軍との空中戦は、まさしく死闘だったのですね。
イギリス空軍の航空機乗組員12万5千人のうち、5万5千人以上が戦死した。
アメリカ軍の航空兵2万6千人がヨーロッパ戦線で死亡した。猛烈な対空砲火と、零下の気温にさらされ、また酸素不足と凍傷にも苦しみながら任務を遂行していた。
この精神的重圧をやわらげるため、基地内に楽しく、くつろいだ雰囲気をつくり出す努力が尽くされた。食事はいつも豊富で、故郷で供される種類のパンが提供された。パブに入り、ダンスホールにも行けた。
ドレスデンの死者は13万5千人をこえ、20万人に達するともみられている。
ドレスデン爆撃は犯罪なのか...。1960年代のイギリスでは、とりわけ芸術界で、ドレスデン爆撃は邪悪で、恥ずべき出来事だという見解が定着した。
東京大空襲だって、広島・長崎の原爆投下と同じように戦争犯罪だと私は考えています、カーチス・ルメイ将軍はやはり犯罪をおかしたのであり、日本政府による勲章授与は大きな間違いだと私は考えています。いかがでしょうか...。
380頁もの大作を久しぶりの北海道行きの飛行機のなかで必死の思いで読みました。
(2022年8月刊。税込4730円)
庭の一隅にフジバカマを4株植えて、花が咲いています。小ぶりの可愛らしい花です。アサギマダラ(チョウチョ)を招こうとしているのですが、まだ来てくれません。九州を縦断飛行中に立ち寄ってくれることを期待しているのですが...。
チューリップの球根を植えつけはじめました。毎年500本近く植えています。
いま、エンゼルストランペットが花盛りです。黄色いトランペットがたくさんぶら下がっています。キンモクセイがようやく咲き出しましたが、今年は匂いがまだ弱い気がします。
2022年10月22日
満州崩壊
日本史(戦後)
(霧山昴)
著者 楳本 捨三、 出版 光人社NF文庫
1945年8月9日未明、ソ連軍は日ソ不可侵(中立)条約を無視して、満州に侵攻してきた。対する日本軍(関東軍)は「無敵」として自称していたが、精鋭部隊を南方の戦線に転出していたので、「根こそぎ動員」によって人員こそ75万人の兵隊がいたものの、軍備が伴っていなかった。充分な兵器なしで兵士が戦えるわけがない。
この本には、なので、ソ連軍は「わずかな抵抗を受けたにすぎなかった」としています。それでも、朝鮮との国境地帯では地下要塞にたてこもって18日間も耐え抜いたとか、西側のモンゴルとの国境近くのハイラルでも関東軍は必死で抵抗したようです。なので、「わずかな抵抗」というのは全体としてみたら、ということなのでしょう。
ソ連軍は侵入に際して、関東軍の猛抵抗を予測して、シベリアの凶悪な無期徒刑囚からなる囚人部隊を2ヶ国、最前線部隊として編成したという風説が紹介されていますが、歴史的事実としては間違いだとされています。たしかに囚人部隊はいましたが、それは経済犯の囚人が主体だったとのことです。
ソ連軍による満州支配は略奪・強姦が頻発して悲惨な状況にあった。それでも、個人としてのソ連兵は、素朴で親しみのもてる者が少なくなく、例外なく子どもが好きだった。
ところが、公人としてのソ連軍将兵の言うことは嘘が多く、約束は多く守られなかった。
満州に中国共産党(中共)軍が進入してきたとき、満州(戦後は東北地域)の人々は、中共軍を恐怖的存在とみた。しかし、次第にそれは薄れていった。
戦後中国では、さまざまなグループは張りあっていて、お互い諜報活動が活発だったようです。満州国がソ連軍の侵攻によって崩壊していく過程がリアルに解説されていて、よく分かりました。
(2022年9月刊。税込924円)
2022年10月23日
明智光秀
日本史(戦国)
(霧山昴)
著者 早島 大祐 、 出版 NHK出版新書
明智光秀は医者だったようです。光秀は牢人時代に医者をして食べていたようだ。つまり、越前で牢人医師をしていた。光秀は、京都代官のとき、医者である施薬院全宗のところによく泊まっていた。
足利義昭が没落したあと、光秀は織田信長の家臣となった。そして、京都の市政を担当する代官となった。村井貞勝と2人で代官の職務をとった。
光秀の妹、御妻木殿(おつまきどの)が信長に側室として仕えていた。
これは、知りませんでした。そして、この妹は光秀と信長とを結ぶ重要な役割を果たしていたというのですが、天正9(1581)年8月に死んでしまったのでした。妹は機転がきいていて、信長の意向全般に通じていたそうです。そんな重要な位置にいた妹を失ったことが本能寺の変を光秀が決断する遠因となっている、とのこと。これはまったく初めての知見です。
信長は、訴訟の基本方針だけを示し、あとは信長の意向を忖度(そんたく)して、光秀らが裁許した。信長の指示は、「当知行安堵(あんど)」、すなわち現在、管理、運営している者を優遇せよ、というものだった。
本能寺の変の前、信長は一族優先等に切り替え、着々と実行していた。つまり、織田一族に連なる、重代の家臣、直属の家臣たちの権威を高めていた。一族を中心に織田家中が序列化されていっていて、その意味で信長の周囲には、組織の自由な雰囲気は失われ、硬直化しつつあった。「外様」の光秀は、これによってはじき出されつつあったようです。
土地調査の方法として、秀吉は現地に出向いて調査して土地台帳をつくるようにした。これを検地という。これに対して光秀は、自らは現地に行かず、現地からの報告にもとづいて土地台帳を決定した。これを指出という。
いろいろ知らないことが書かれていて、勉強になりました。
(2020年1月刊。税込968円)
2022年10月24日
すごい言い訳!
人間
(霧山昴)
著者 中川 越 、 出版 新潮文庫
人生最大のピンチを、文豪たちは筆一本で乗り切った。オビのこんなキャッチフレーズにひかれて読んでみました。
この本によると、樋口一葉は22歳のころ、名うての詐欺師(相場師)に取り入って、お金をせびろうとしたそうです。そのときの一葉の文章は...。
「貧者、余裕なくして閑雅(かんが)の天地に自然の趣(おもむ)きをさぐるによしなく...」
一葉は、名うての詐欺師も舌を巻くほどの、非常にしたたかな一面も持ち合わせていたようだ。本当でしょうか...。そうだとすると、ずいぶんイメージが変わってきますよね。
石川啄木(たくぼく)について、北原白秋は「啄木くらい嘘をつく人もいなかった」と評したそうです。ええっ、そ、そうなんですか...。
借金してまで遊興を重ねたくせに、あるときは、「はたらけど、はたらけど、なお、わが生活(くらし)楽にならざり。ぢっと手を見る」と、啄木はうたった。
啄木はウソの言い訳を連発した。人は、こんなに見えすいたウソを続けて並べるはずがないという相手の深層心理につけいった。いやはや、なんということでしょうか...。
「前略」も「草々」も言い訳。「前略」は、全文を省く失礼をお詫びします、という意味。「草々」は、まとまらずに、ふつつかな手紙となり、すみませんという意味。
夏目漱石は、明治40年、40歳のとき、それまでの安定した東京大学の教師の地位を捨て、朝日新聞社の社員へ、果敢に鞍替えした。不惑で転職する人は、勇敢だ。
私の父は46歳のとき、小さなスーパー(生協の店舗)の専務を辞めて、小売酒屋の親父(おやじ)になりました。5人の子どもたちに立派な教育を受けさせるためです。サラリーマンでは無理なことだと正しく判断したのです。
漱石は、朝日新聞社では主筆よりも高い棒給をもらいました。月給200円(今の200万円以上)、賞与は年2回で、1回200円。朝日新聞は、日露戦争が終結すると、購読数が伸び悩んでいたので、漱石を社員として囲い込んだのでした。
漱石は40歳で死亡しました。
若死にですよね。これに対して画家は長生きしています。北斎は88歳、大観は89歳、ピカソは91歳まで生きた。絵を描くのは精神衛生によいからだろう。
言い訳にも、その人となりがよくあらわれるものですね...。
(2022年5月刊。税込693円)
2022年10月25日
奈良絵本・絵巻
日本史(中世)
(霧山昴)
著者 石川 透 、 出版 平凡社選書
この本の冒頭に書かれていて、あっと驚いたのは、『ガリバー旅行記』に日本の絵本の影響が認められるということです。
『ガリバー旅行記』は、イギリスの作家スウィフトが1726年に刊行したものです。私は原文を全文読んだ覚えはなく、ダイジェスト版の絵本を読んだと思います。でも、そこに、こびとの島や巨人の島、さらには馬人の島、天空の島が登場してくるのは覚えがあります。
ところが、御伽草子(おとぎぞうし)の一つである『御曹司島渡(おんぞうし、しまわたり)』という、源義経が兵法書を求めて、さまざまな島を訪れるというストーリー展開の絵本があり、そこにこびとの島、背高島、馬人の島が登場するというのです。日本の絵本のほうが『ガリバー旅行記』より100年古い。いったい、これは、どういうこと...?
スウィフトは、イギリスで駐オランダ英国大使の秘書をしていて、大使の遺品整理をしている。もちろん、オランダは江戸時代の日本と長崎・出島を通じて交流があった。そのなかに日本の絵本が含まれていた可能性は大いにある。そして、文章は読めなくても、絵を見るだけでストーリー展開は理解できる。空中の島も絵本の中にあり、スウィフトは最後に「日本」を登場させていることから、恐らく間違いないだろう。
驚きましたね。日本の浮世絵がヨーロッパの絵画に大きな衝撃を与えていたことは知っていましたが、それよりもっと早い時期にも、日本の絵本がイギリスに伝わっていたとは...。
奈良絵本とか絵巻というから、奈良時代か奈良地方でつくられたものかというと、いずれも間違い。奈良絵本・絵巻とは、17世紀を中心として、主として京都で製作された絵本・絵巻のこと。印刷ではなく、すべて手作り。豪華に彩色されていることが多い。その作者として、浅井了意がいるが、居初綱(いそめ)つなという女流絵本作家もいる。
このあと、私たちがよく知っている昔話が、実は、昔はストーリーの結末が大きく異なっていることが、いくつも紹介されています。
「浦島太郎」では、子どもが亀をいじめる場面はなく、浦島太郎は乙姫と結婚している。そして、太郎は船で蓬莱の島へ向かう。息のできない海中を進むような非科学的なシーンはない。なーるほど、そうだったんですね...。
『鶴の草子』は「鶴の恩返し」のもとになった御伽草子だけど、室町時代から江戸時代にかけては、機織(はたお)りをするのは鶴ではなく、蛤(はまぐり)だった。
『桃太郎』のもとになった『瓜子(うりこ)姫』では、日本の古い時代において円形状ないし卵状のものから誕生するのは、圧倒的に女子が多い。瓜から生まれた瓜子姫は、その代表的な存在。
かぐや姫は、竹から誕生するのではなく、その多くは鶯(ウグイス)の卵から誕生する。そして、かぐや姫は月に帰るのではなく、富士山へ帰っていくのが多い。
いやあ、知らないことばかりでした。物語って、こんなに内容が変遷していくのですね...。
(2022年7月刊。税込3960円)
2022年10月26日
最上氏三代
日本史(戦国)
(霧山昴)
著者 松尾 剛次 、 出版 ミネルヴァ書房
出羽(山形)の雄将として名高い最上(もがみ)氏三代の栄衰史です。あまり期待もせずに読みはじめたのですが、いやいや、どうしてどうして、とても面白い盛衰記でした。
初代の最上義光は家康の意を受けて、関ヶ原の戦いのとき、上杉景勝と一歩も引かずに激闘したおかげで、関ヶ原に上杉勢は行くことができなかった。その功績を家康は高く評価し、戦後、天皇に面会するとき義光を同行させたほどです。しかも、領地を一度に増やしてやりました。
このときの家康の会津(上杉勢)攻めは、豊臣秀頼の許可を得て、秀頼から金2万枚、米2万石をもらっていた。つまり、これは家康の私戦ではなく、豊臣秀頼の承認のもとに行われた、豊臣軍による征討だった。
ところが、石田三成が秀頼に働きかけて、家康を弾劾するようになったので、上杉景勝を征伐する大義を失った。それで、伊達政宗も二股外交に走り、上杉方と停戦するに至った。それでも最上義光は上杉勢との戦闘を続けた。しかし、上杉が120万石に対して、最上は13万石でしかない。単独で戦えば、勝敗は明らかだった。しかし、関ヶ原の戦いで西軍の石田方が敗北したことで、大きく局面は変わった。
上杉勢に石田方敗北の報は9月30日に入った。結局、最上義光は13万石から57万石の大名となった。
ただ、最上勢のなかに1万石をこえる大名クラスが15人もいて、山形藩の統治は難しかった。
山形城には天守閣がない。城下整備などの土木事業は、百姓の疲弊をもたらす。最上義光は「民のくたびれにまかりなり候」と考えていた。
最上義光は、父の義守と親子対立し、死闘を繰り広げた。そして、自分自身も子の義康と対立し、横死させてしまった。何の因果か...。
これには、義康が豊臣秀頼の近習であったことから、家康が秀忠の近習だった家親を最上家の跡継ぎとするよう、そのため義康を排除するように義光に指示したのだろうとされています。
なるほど、最上家にも豊臣秀頼と徳川秀忠のどちらにつくか、二つの流れがあったわけです。
そして、その家親。家親は、秀忠の近習として、大変信頼されていたようです。ところが、家親はずっと秀忠のそばにいたため、山形藩のなかに直臣を形成することができなかったうえ、なんと36歳という若さで急死してしまったのです。
すると、その次、三代目は、まだ12歳。いかにも頼りがない。重臣たちが、勝手気ままに分裂して、まとまりのない藩になった。そこで、「家中騒動」(重臣の不知)を理由として、改易を申し渡され、1万石に転落した。さらには、大名ではなく、5千石の旗本にまで降格された。
最上家には、もう一つの悲劇が襲った。義光の娘が豊臣秀次に嫁入りしていたところ、秀吉に子(のちの秀頼)が出来たことから秀次は切腹させられ、同時に、秀次の妻妾たちも一挙に惨殺された。そのなかの一人に義光の娘が入っていた。しかも、娘の死を追うようにして義光の妻まで死んでしまった(恐らく自死)。
戦国時代の武将が、なかなか厳しい人生を送っていたことを実感させられる本でもありました。
(2021年12月刊。税込3850円)
2022年10月27日
統一協会の何が問題か
社会
(霧山昴)
著者 郷路 征記 、 出版 花伝社
統一協会(教会ではありません)と35年にわたって対峙・対決してきた著者が安倍元首相を殺害した山上容疑者の母親の置かれている状況を深く深く突っ込んで解説しています。これを読むだけでも、この800円の小冊子(ブックレット)を読んだ甲斐は十分にあります。
統一協会が対象とする人は次の3条件を備えている人。その1、預貯金が100万円以下の人は誘わない。お金のない人を誘うのはムダなこと。目標は100億円の預貯金のある金持ちをゲットすること。その2、素直な人に限る。何事も疑ってかかる人はコスパが悪い。その3、宗教心があること。あの世を全然信じないような人はダメ。占いを信じる人ならOK。
印鑑販売に始まり、氏名判断をする。このときのトークは、運勢があなたの人生に影響している。先祖の悪霊が家系を通じて、あなたの不幸につながっている、というもの。霊界や因縁の話を聞かされて、迷信と思わず、実在すると感じる人が一定割合でいる。そんな人を統一協会は狙う。そして、ビデオセンターに誘導する。このときは、統一協会の教養は徹底的に隠しておく。ビデオセンターを受講すると、少なくとも1割、著者によると25%以上が統一協会員になる。
霊人体が存在し、霊界で永遠に生きるという講義内容を素直に受け入れられない人は、「卒業させる」、つまり追い出してしまう。
統一協会の神は、悲しみの神だ。サタンが人間を奪っていってしまったことに対して手を出せず、何もすることができず、6000年間、涙にくれていた神。今から6000年前というと、日本では思いあたりませんが、古代エジプト王国があったのでしょうか...。
山上容疑者の母親(この冊子ではA子さん)の夫は自殺しています。
配偶者を自殺で失ったときの自責の思いは、他人が想像もできないほど格別に深い。
ここに統一協会はつけこみ、原罪をもっているあなた(A子)は愛のある人格者でなかった、愛をもって夫を支えきれなかった、あなたの罪の故に、夫は自殺した。そのため、夫は地獄の深いところ、下から2番目のところで苦しんでいる。このようにA子は強い罪の意識を深めただろう。そして、そのとき、「救われる道はある」とささやき、「偽りの希望」を与える。そこにA子は飛びついたのだろう。
ビデオセンターは、罪人である自分と家族が救われる方法を知るための場になった。
罪の意識を持たされた人は、それが深ければ深いほど、切ない思いで救いを求め、メシアを渇望する。そこにメシアを与える。
このとき、それでも罪の意識をもたせられない人は「卒業」させ、追い出してしまう。
不安や恐怖を発生させる力をもつ因縁を実感させられ、記憶として定着させられてしまうと、不安や恐怖は意識の表層部分に常にあらわれていなくても、意識の下層に埋め込まれた状態になっているので、何かの拍子に不安や恐怖が沸きあがってきて、意思決定が歪められてしまう。これが、「因縁」の力。
原理講義は理解させるのはなく、そのまま丸呑みすることを求める。
A子を献金させ続けるための新しい理屈は「恨霊」。自殺した夫は恨霊になって地上をさまよっている。A子は恨霊になった夫をおさめるため、また小児ガンとなった長男の体のなかの恨霊を追い出すため献金を続け、さらに韓国・清平に何度も通った。
そして、堕落性本性(よこしまな心)を自分の心から追い出し、きれいな心になるためには、物売りをすること、統一協会を増やすことが必要だと告げられ、実践していく。
財産がなくなったら、借金してまで献金させる。また、親戚・知人に嘘をついて借金し、献金させる。すると、人間関係が全部切断されてしまい、統一協会に頼るしかなくなる。
嘘をついての勧誘や物売り、嫌がらせの電話など、すべては神のため、メシアのため、善なので、やらなければならない。
カインはアベルの言うことに絶対服従。自分の頭で考えることは禁じられ、やれと言われたら、やるという人間になる。
「今はわかってもらえなくても、霊界に行けば、きっとわかってもらえる、感謝してもらえる」
「私の使命は、そうすることによって息子たちを守ること。それは、私以外にできないこと」
A子にとって、統一協会の存続、栄誉が第一の問題になっている。途中でやめたら、自分は地獄に行く。
著者は、A子は、統一原理に頭を支配されている以外は、私と何の変わりもない人なんだと強調しています。そのとおりなのでしょうね。でも、これほど人間の頭をコントロールできるって、本当に恐ろしいことですよね。
統一協会に入った人を救うには、論理・常識ではなく、愛がもっとも重要だとしています。
文鮮明(故人)と韓鶴子の王になった即位式の写真が紹介されていますが、まさに「王」ですね。韓国の本部も「宮殿」でした。日本人の信者から騙しとった大金がつぎこまれた建物です。むかつきました。全文で100頁ですが、前半の50頁だけでも十分に統一協会問題の本質が分かると思いました。今、大いに読まれるべき冊子として、強く一読をおすすめします。
(2022年11月刊。税込880円)
2022年10月28日
深海学
生物
深海学
(霧山昴)
著者 ヘレン・スケールズ 、 出版 築地書館
この本を読んで、私は二つの謎に直面しました。その一は、地球上の海が、いったい、どうやってこれほど大量になったのか、ということです。だって、地球は生成当時は「火の玉」だったわけですよね。それが冷たくなったとしてても、水が簡単にできるはずはありません。さらに雨粒ができたとしても、今のような大海になるなんて、いったい、どれくらいの年月がかかることでしょうか...。200メートルより深い海の水の総量が10億立方キロメートル。アマゾン川は、80分ごとに1立方キロメートルの水を海に流しているが、この量で深海全体を満たそうとすると、15万年かかる。いやはや、「海の水はなぜ塩辛い」という難問の前に、なぜ海水はこんなに大量にあるのか、どこから来たのか、のほうがより難問ですよね。その答えは、今のところ、太陽系の外縁から氷の彗星が初期の地球に衝突して水が供給されたというもの。つまり、水の起源は宇宙(空)から降ってきたものなんです...。
もう一つの疑問は、深海に光が届かいのはなぜか、です。海面から1000メートルより深い深海には太陽光は届かず、漆黒の闇となる。では、光の粒子は、いったいどこへ行ってしまったのか。光の粒子を吸収したものって、何なのか...。私には理解できません。また、もう一つ、光って粒子であると同時に波でもあったのですよね。だから、光は、何万光年も先まで届き、また、やって来るのでしょ。波は、いったい、どうやって深海中で消えてしまったというのでしょうか...。これら疑問の答えを、ぜひ教えてください。
マリンスノー(海の雪)は、おもに植物プランクトンや動物プランクトンの死骸や糞で、それらがプランクトンやバクテリアの分泌する分子からできる粘着性物質でつなぎ合わされている。
マッコウクジラは推進2000メートルまでフツーに潜れる。3000メートル近くまで潜ったという記録もある。なぜ、そんな深海までマッコウクジラは潜れるのか...。マッコウクジラは独自の手法で体に酸素を蓄えている。つまり、筋肉や血液中に酸素を蓄える。血液は糖蜜のようにドロドロ。それは、酸素と結合するタンパク質であるヘモグロビンが詰まった赤血球の占める体積が多いから。
ミログロビンというタンパク質は、酸素と結合して、筋肉を黒に近い色に染め、必要なときに酸素を放出する。マッコウクジラは深海では、心拍数を下げて、蓄えた酸素の消費量を減らす。そして、潜水中に必要のない臓器への血管をふさいで血流を止め、その分で生かせる酸素を脳と筋肉に使う。
マッコウクジラは、深海では音を突発的に発し、音響定位で獲物のイカを探して、追いかけ、食べる。まるで、水中版巨大コウモリのよう。
深海には地上の光が届かないので、真っ暗。ところが、深海には発光する魚類がいる。
深海に生息する魚類は、きわめて良い視力を進化させた。どの魚も生物発光を感知するため。目は超高感度になり、網膜には、数十もの光・色素をぎっしり並べて異なる波長の光を見分けることができる。そのため、ほかの動物が発する弱い光の点滅が見えるだけでなく、発する光の色の違いも見分けられる。
深い海に生息する生き物の多くは寿命がとても長い。深海の動物たちは、何事も時間をかけ、ゆっくりと成長し、わずかばかりのエサが通りかかるのを待ち、次の交尾の機会がめぐってくるのを辛抱強く待つからか...。
深海をめぐる深刻な問題点も指摘されています。その一は、マイクロプラスチック。その二が、地上の有毒廃棄物を深海に捨ててきたこと。その三が、放射性物質の捨て場になってきたこと、です。いずれも本当に深刻な問題だと思います。
深海をめぐる根本的な問題が、いくつかの光をあてて浮きぼりにされていて、大変勉強になりました。人類が末永く生きていくためには、今を生きる私たちのやるべきことは多いことを痛感させられました。見えないから何もしなくてよいという問題ではないのです。
(2022年6月刊。税込3300円)
2022年10月29日
裏切り(上・下)
ドイツ・イギリス
(霧山昴)
著者 シャルロッテ・リンク 、 出版 創元推理文庫
著者はドイツ在住のドイツ人なのに、イギリスを舞台とするミステリー小説です。文庫本で2冊の分量ですが、次々に起きる残虐な殺人事件の動機が不明なのです。被害者の1人は、イギリスのスコットランド・ヤード(警視庁)の独身女性刑事の父親の元警察官(警部)。いったいなぜ元警部が残虐な殺され方をしたのか...。その動機の解明は下巻の最後にまで先送りされます。
途中で浮かびあがった犯人は典型的なDV男。我が子に無関心な両親から捨てられたという思いでいた女性が、DV男の見かけだけの優しさから、ついには隷従状態と化してしまいます。どんなに叩かれ、馬鹿にされても、この人なしでは自分は生きていけないという思いからDV男の言うなりについていくのです。それはまるで統一協会の信者のようです。他人の忠告もききめがなく、目が覚めることがありません。
警察のなかの人間関係も寒々とした印象です。殺人犯人を検挙して成績をあげなければいけないので、とてもストレスがたまる職です。アルコールに頼ってついに中毒患者にまでなってしまう警部が登場します。
ドイツでは2015年に160万部と、もっとも売れたミステリー小説だそうで、その評判どおりなのか、そこに関心があって読んだのでした。時間がつくれる方には一読をおすすめします。それだけの価値はあります。
残虐な殺人の動機がこの本の最後で、やっと解明されます。なーるほど、...、そう思って初めからストーリー展開をたどると、あまり無理のない動機におさまっています。ネタバラシはしません。最後に、この本の末尾の文章を紹介します。
「人は極限状態を体験したあとでは、決して元の生活を完全に取り戻すことはできない。いちど受けた損傷は、もう治らない。これからは、ひとつの重荷を背負って生きていかねばならない。その重荷は二度と降ろすことができないかもしれない。でも、どれほど辛かろうと、これは今なお私たちの人生なんだから...」
最後まで、ハラハラしながら読ませますので、ドイツで大ベストセラーになったのも当然だと思いました。
(2022年6月刊。税込1320円)
2022年10月30日
咲かせて三升の團十郎
江戸
(霧山昴)
著者 仁志 耕一郎 、 出版 新潮社
江戸時代も後期の歌舞妓(かぶき)の舞台で大活躍した七代目・市川團十郎(だんじゅうろう)の半生記が見事に語られています。
東西(とざい)、東西...。七重の膝を八重に折り、隅から隅まで、ずずずいーと、御(おん)願い申し上げ奉(たてまつ)りまする...。
市川團十郎家が座頭をつとめる芝居小屋では、初代團十郎が初春興行で初めて「暫(しばらく)」を演じてから、二代目以降も見世興行の序幕は「暫」と定められている。
市川團十郎家は、「成田屋」の屋号をもつだけに下総国(しもふさのくに)幡谷(はたや)村にある成田山新勝寺とは縁深い。江戸での出開帳(でかいちょう)の折には、代々の團十郎が不動明王を演じてきた。
江戸庶民のあいだでは、不動明王には病を治す力が備わっていると信じられており、弟子たちも、やはり不動明王と縁深い成田屋だから...、と御利益(ごりやく)を信じて疑わない。
役者の世界で「華(はな)がない」とは、観客を引きつける魅力がないということ。これだけは生まれもっての「天賦の才」というもの、芝居のうまい下手(へた)ではなく、顔の良し悪しでもない。
「まだ若いから見えないだろうが、71年も生きてくると、若いころには見えなかった世の中の理不尽や不条理が、よーく見えてくるもんだよ」
こんなセリフに接すると、「そうだ、そのとおり」と大声をあげたくなります。
演技の優劣・うまい下手は背中に出る。とくに動きの激しい立役に比べ、仕草の小さい女形は舞台で巧みに背中を使い、台詞(せりふ)以上に喜怒哀楽を表し、観客の目を魅了しなければならない。いやあ、これは難しいことですよね...。
芝居は上辺じゃない。役の心になりきれるかだ。どんなに顔が良くても、役の心、心の芸ができなければ、役者は下だ。心の芸ができてきたら、体も自ずと動き、台詞も重みを増す。それが役を演じるってこと。それができないのは、心に妙な物が棲みついて、濁(にご)っているからだ。
江戸で人気の高かった相撲力士の雷電為右衛門は、「天下無双の雷電」と刻ませた鏡を寺に奉納したカド(廉)で、江戸払いとなり、戻ってはこなかった。
歌舞伎は明治以降のコトバであって、江戸時代には歌舞妓と書いていたそうです。その歌舞妓の世界を情緒たっぷりに味わうことができる本でした。
(2022年4月刊。税込2640円)
2022年10月31日
パンダ「浜家」のファミリーヒストリー
生物
(霧山昴)
著者 NHK取材班 、 出版 東京書籍
日本にパンダがいるのは、東京の上野動物園、神戸の王子動物園、そして和歌山・白浜のアドベンチャーワールドの3園だけ。
40年以上も前に子どもを連れて上野動物園にパンダを見に行ったときは、昼間なのでお目あてのパンダは寝ていましたので、よく見ることができませんでした。神戸には行ったことがありませんが、白浜のアドベンチャーワールドにはすぐ目の前でパンダがゆったり歩き、竹を食べていましたので、それこそ大興奮しました。
アドベンチャーワールドには2回行きましたが、パンダをじっくり見たいなら、やっぱりここです。白浜温泉に1泊して、ゆっくりパンダを眺めると、ストレス発散まちがいありません。
「浜家」のパンダファミリーとは、中国と提携しているアドベンチャーワールドでオスのパンダ「永明(えいめい)」が次々に子をもうけ、なんと16頭ものパンダの父親となったことによります。その子どもたちは、白浜で生まれたので、みな名前に「浜」がついています。それで、永明につながるパンダを「浜家(はまけ)」のパンダと呼んでいるのです。
パンダの寿命は野生では15年ですが、飼育していると30年は生きます。永明がまさに30歳。人間でいうと90歳。まだまだ元気です。おっとりした性格で、いつものんびりしているのがいいようです。人間も同じですね。
この本を読んでパンダにも右利きと左利きに分かれていることを知りました。永明は右利き。竹を食べるようになると、よく使う手(利き手)が分かるそうです。
パンダは竹だけを食べるのではありません。雑食性の動物です。やはりクマの仲間なのでしょうね。肉も魚も昆虫も食べます。アドベンチャーワールドでは、竹以外に補助食としてリンゴ、ニンジン、動物用のビスケットを与えています。
竹でも、どんな竹でもパクパク食べるパンダもいるけれど、永明は竹の選り好みがとても激しく、気に入らないと少しかじってポイ、匂いをかいだだけでポイしてしまう。
永明の好む竹を求めてスタッフは駈けずりまわり、ようやく園内に植えて、食材を確保したとのこと。
パンダの眼はあまり良くないようだが、鼻と耳は、とても良い。飼育スタッフの声は、ちゃんと聞き分けている。
ちなみに、白浜にパンダがたくさんいるのは、中国のパンダ基地にいるパンダが病気で全滅しないようにするための安全策という面もある。白浜で生まれたパンダが中国に戻っていくのは、そんな交換条件があるからでもあるが、とても合理的なシステムだと思います。もちつ、もたれつのいい関係なのです。
それにしても、何度みてもパンダの写真集って、心がなごみますよね。パンダ、万才です。NHKの番組が本になっています。
(2022年7月刊。税込1430円)
日曜日、よく晴れた気持ちのいい朝でした。
フェンスにジョウビタキがやってきて、しきりに尾っぽを振って挨拶してくれました。ほんとうに可愛らしい小鳥です。
フジバカマの花が、白い花も茶色っぽい花もまっさかりです。アサギマダラは来てくれないかなと見守っていると、茶色の派手なチョウが一匹やってきました。でも、アサギマダラではなさそうです。
庭師さんに伸びすぎた本を刈り込んでもらい、庭がずいぶんすっきりしました。今は芙蓉のピンクの花が咲いています。
午後から、チューリップの球根、そしてアスパラガスを植えました。春にそなえます。今年もあと2ヶ月、早いものですね。