弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年9月23日

洪流

中国


(霧山昴)
著者 程 極明 、 出版 KKブロス

 日中戦争のころ南京に生まれ育ち、国共内戦下の上海の復旦大学で学生運動の幹部として活動した学生群像を生き生きと描いた小説です。
 1937年夏の南京から物語は始まります。日本が日中戦争を始め、中国に対して無法にも侵略戦争を仕掛けてきました。蒋介石の中国軍は戦わずして撤退し、日本軍によって人々の住む町は無残にも焼き払われ、虐殺が始まります。日本軍に対する抵抗はまだまだ弱いものでした。中国共産党は南京に地下党を建設し、8回も市委員会を設けたが、すべて失敗した。みな殺されるか逮捕された。勇敢なだけでは革命に勝利できない。過去の路線は、あまりにも「左」寄りで、大衆から離反していた。地下党の規律は、もっと厳格でないと、すぐに破壊されてしまう。
 党中央は、密かに素早く、長期に埋伏し、力を蓄え、時期を待つ方針を打ち出した。せっかちにならず、「左」の過ちを犯さず、一時的な衝動に走らない。豪放的なものを利用し、大衆を団結させる。これを少しずつ実践していったのです。まさしく、苦難にみちた粘り強い取り組みがすすめられました。
 大学生たちは、南京のアヘン撲滅運動に立ち上がり、実力行動を起こしました。これには多くの民衆が賛同しましたし、南京政府も日本憲兵隊も手が出せませんでした。
 1945年夏、日本敗戦のあと、蒋介石の国民党政府が南京を支配した。南京の大学に対して、国民党の特務組織(公安当局の手先。スパイ・弾圧機関)が目をつけ、すきあらば弾圧しようと目を光らせた。国民党政府は、3ヶ月で共産党を負かすことができると豪語した。
 アメリカのトルーマン大統領はマーシャル将軍を中国に特使として派遣し、国共両党の軍事衝突を防ぐため、調停を試み、1946年1月10日、双十協定が成立し、停戦が実現した。
 1946年4月、国共内戦が中国の東北地方で始まった。
 1947年2月、毛沢東は「中国の政局は新たな段階に発展しようとしている。全国的に反帝・反封建闘争が発展し、今は新たな人民革命の前夜である」と指示した。 
 学生たちが南京でも北京、上海でも立ち上がった。蒋介石は、学生運動の鎮圧にふみ切った。これに対して、共産党の側は戦略を弾力的で運用することで抵抗した。
中間分子の意識の高まりも見なくてはいけないが、彼らの進歩が高いとみるべきではない。民衆には、休養し、考える時間がいる、進歩分子のレベルだけで大多数の学生を推し量ってはいけない。学生運動は波状的に前進するもので、直線的には発展しない。
 なかなか考えられた指示ですね。革命に勇敢さは必要だが、勇ましいだけで無謀なら、革命大衆の情熱と生命をムダにしてしまう。そのとおりなんでしょうね。よく分かります。
 1948年5月の上海解放の日までが描かれた、手に汗を握るストーリー展開でした。
 地下党活動の様子が、その困難さと知恵・工夫のあり方をふくめて具体的に紹介されています。訳者の井出叔子氏に注文して入手した本です。読みごたえ十分の本でした。
(2022年6月刊。税込1300円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー