弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年9月 7日

日米地位協定の現場を行く

社会


(霧山昴)
著者 山本 章子 ・ 宮城 裕也 、 出版 岩波新書

 日本のなかにあるアメリカ軍基地、そしてアメリカ軍の勝手気ままな行動を見るにつけ、日本は本当の意味で独立国家ではないことを痛感させられます。自公政権を支持している人は、アメリカに日本は守られているのだから、少しぐらいのことは辛抱すべきだと考えているようですが、私には、とても「少しぐらいのこと」とは思えません。
 たとえば、アメリカの大統領は日本に入国するのに、羽田空港ではなく横田基地を利用します。羽田空港と違って、横田基地はアメリカ軍人は全員フリーパス。入管の検査を受けることがありません。
 私は、これだけでも、ひどいと思います。コロナ禍の下でもそれは変わりませんでした。アメリカ軍の兵士と家族は、入出国が日本政府のコントロール下には置かれず、まったく自由なのです。信じられません。
 東京の港区六本木というと、東京のなかでも超一等地。そこにアメリカ軍基地があります。横田基地から、この赤坂プレスセンターまでヘリコプターで移動します。赤坂プレスセンターの宿舎は、1泊6千円で、一室に2部屋ある。こんなに安いのは、例の「思いやり予算」でまかなわれているから。
 アメリカ軍の関係者は、日米地位協定9条によって外国人登録が免除されているため、自治体に住民登録する必要がない。すると、住民税などの税金を負担しなくてよい。それでも、市民サービスの恩恵は受けている。住民税の代わりに調整交付金なるものが自治体に支払われるが、その原資は日本国民の税金であって、アメリカ軍は負担していない。ええっ、ウッソー、嘘でしょ、と叫びたくなります。
 2004年8月13日に普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学にアメリカ軍の飛行機が墜落したとき、日本の警察すら現場から排除された。50人ものアメリカ兵が大学構内に無断進入し、1週間にわたって大学を占拠・封鎖した。これが日米地位協定の運用の現実です。日本政府は抗議のひとつもしませんでした。情けないというしか言いようがありません。
 沖縄では、アメリカ軍基地から大量の有害物質が流出している疑いがある。なので、付近住民は水道水は、そのまま飲まないほうがいい。泡消火剤に含まれているPFOS・PFOAの流出問題。これは有機フッ素化合物で、これによって子どもが低体重で生まれ、精巣がんや腎細胞がん、甲状腺疾患などに関連している疑いがある。なんと、なんと、ひどいものです。
 沖縄県知事選挙が始まりましたが、自公政権はアメリカべったりの政策をすすめるために、それに少しでも歯向かえば予算を削減するという、露骨なアメとムチ政策を続けています。でも、経済振興策って、平和を前提としていますよね。アメリカ軍の基地・宿舎をなくして、跡地を再開発して莫大な経済効果が生まれましたよね。アメリカ軍の基地を沖縄経済の発展を阻害していることは実証ずみなのです。沖縄県民の良識をひたすら信頼するばかりです。
(2022年5月刊。税込990円)

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