弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年8月20日

笑いの力、言葉の力

人間


(霧山昴)
著者 渡辺 文幸 、 出版 倫理社

 「井上ひさしのバトンを受け継ぐ」というサブタイトルのついた本です。井上ひさしは私のもっとも尊敬する偉大な作家の一人です。
 井上ひさしは中学生時代、成績優秀で、いつも全校10番以内にいた。ところが、仙台一高では、なんと1学年300人のうち250番内に入ったことがなかった。ただし、国語については、抜群の優等生だった。
 いったい、高校生の井上ひさしは何をしていたのでしょうか...。
 井上ひさしは、勉学の道から離れて、映画監督か脚本家を目ざした。そこで担任の教師に対して、「仙台に来る映画を全部みたい」と申し出た。これに対する教師の回答は、なんと...。
「まあ、やってみたらいいじゃないか。その代わり、学校には3分の2は必ず出てこいよ」
そして、映画の半券と感想文の提出を求めた。
 いやあ、いい時代ですね、うらやましい限りです。
井上ひさしは、早朝割引と学割を使って、同じ映画を最低2回みた。2回目は、暗闇のなかでメモをとりながらみたのです。これには、さすがにたまげました。映画館の暗闇のなかでメモをとるなんて、私は考えたこともありません。結局、高校3年間に1千本もの映画をみたというのです。これはもう人生の大きな財産に間違いなくなったことでしょう。そして、映画批評を書いて送ったら、第一位に入賞して、賞金2千円などをもらったとのこと。さすが天才的な人は、やることが違います。
井上ひさしは、医師になろうとして、医学部を受験して、2回も失敗します。それで、次に作家になろうと考えたのでした。
井上ひさしは、読むのが速い。1日に30冊から40冊も読んだ。そして、「遅筆堂」と名乗って、書きあげるのは遅かったが、本当は書き出したら速かった。書くためには調べ尽くさないといけない。調べるのは大好き。自分への要求が高い。それで書き始めるまでに時間がかかってしまう。
井上ひさしの遅筆は完璧主義によるもの。追い詰められないと力が出ない。遅くてもいいから、納得のいくものを書きたい。いいものを書くために、練って練って、何度も何度も書き直す。そして、「悪魔が来」て、傑作が出来あがる。
私も小学生のころ、「ひょっこりひょうたん島」を楽しみにみていました。1964(昭和39)年4月6日に始まったのです。私が高校1年生のときですが、これは生意気盛りの子どもにとっても共感を呼ぶ内容でした。大人中心の社会に対する子どもたちの異議申し立て、大人たちのおかしさを笑いのめす子どもたちがひょうたん島にはいるのでした。
私と同じ団塊世代の著者による井上ひさし評伝です。天才的な井上ひさしに、今なお、私はあこがれています。
(2022年7月刊。税込1430円)

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