弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年7月24日

「男はつらいよ」全作品ガイド

人間・社会


(霧山昴)
著者 町 あかり 、 出版 青土社

1991年うまれのシンガーソングライターの著者は映画館で『男はつらいよ』をみたことはないようですが、全作品を繰り返しみたとのこと。寅さんの映画のすばらしさと感動を素直な文章で紹介しています。
『男はつらいよ』を大学生時代、そして苦しい司法試験の受験勉強の息抜きとして深夜に東京は新宿の映画館でみていた私、さらに弁護士になり、結婚して子どもができてからは、お正月映画として子どもたちを引きつれて映画館で大笑いして楽しんでいました。
私の人生と映画『男はつらいよ』を切り離すことは絶対にできません。
「男だけが辛いとでも思ってるのかい?笑わせないでよ!」
いやあー、す、すんません。
「いくら心の中で思っていても、それが相手に伝わらなかったら、それを愛情って言えるのかしら?」
「幸せにしてある?大きなお世話だ。女が幸せになるには男の力を借りなければいけないと思っているのかい?笑わせないでよ」
他者に左右されない幸せ...。
寅さんは、こう言ってなぐさめる。
「月日がたちゃ、どんどん忘れていくもんなんだよ。忘れるってのは、本当に良いことだなあ」
ホント、そうですよね。忘れられなかったら、すぐにも病気になってしまいますよ。
「人間っているもんはな、ここぞというときには、全身のエネルギーをこめて、命をかけてぶつかっていかなきゃいけない。それが出来ないようでは、あんた幸せになられへんわ!」
失敗を恐れず、思いきり自由に生きたいものです。
著者は、映画館で声を出しながらみる昭和時代のスタイルに憧れているといいます。私は、子どものころから、それを体験しています。子どものころ、映画館にいて、嵐寛寿郎の「くらま天狗」が馬を疾走させて杉作(すぎさく)少年を悪漢から救出させる場面になると、館内の大人はみんな総立ち、手に汗にぎる思いで、みんなで声をからして声援するのです。まさしくスクリーンと館内とが一体化していました。そして、『男はつらいよ』を有楽町の映画館と大井町の映画館でみたとき、こんなに観客のリアクションが違うのか、と驚きました。
やっぱり「寅さん」映画は下町・場末(ばすえ)の映画館で、掛け声や心おきない笑い声とともにみて楽しむものなのです。子どもたちと一緒にみるときも、声を出して大笑いして楽しみました。こんなガイドブックを読んだら、次はぜひ全作品をDVDでみてほしいものです。手引書です。
(2022年4月刊。税込1760円)

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